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八重嶋さんと二人で消えたイルマリの件も、恨めしく聞いてみる。
あれはほんとに……。
「ん? それ、いつの話?」
「え? 10月頃かな」
「……あぁ、それ、あれだ。俺と八重嶋が同じ大学だってことは知ってる? サークルも同じだったんだ」
個人的な付き合いは一切ないけれど、お互い存在は知っていて、たまたま会社も同じ。
時々集まるグループが一緒らしく、連絡を取り合うこともあったという。
「俺の友人で、今海外で働いているやつがいるんだけど、そいつと大学の頃から付き合っていたのが、八重嶋の友人。海外赴任が決まった時に付いていって、そのまま向こうで結婚したわけ」
「うん」
「久しぶりに帰国するけどすぐにまた戻るってことだったから、それならささやかなお祝い会くらいするかって話になって、二人ともイルマリがいいって言うから、集まったって訳。俺が幹事で。八重嶋以外にも外で待って案内してたんだよな、たしか。…まさかそれをピンポイントで見られていたとは……」
「そうだったんだ。私はてっきり、深谷さんと八重嶋さんが二人で待ち合わせして密会しているんだと思って」
「密会って。あの忙しい時期に時間作ってわざわざ、そんなわけないよ。お祝いの場だったから集まっただけで。しかもあの日貸し切りだったんですけど」
「え!?」
「せめて店の前まで来てくれればね。貸し切りって張り紙されてたし。もう一歩踏み込んでくれたらね、事実がわかったんだろうけど。二人で飲むんですか? 私もーって」
「い、言えるわけない!」
「そうだろうけど、そのせいで俺、あんなに冷たい仕打ちをされていたかと思うとね」
「うっ。すみません」
「早とちりだよね」
「意地悪言いたいのですか?」
「陽を揶揄うのは面白いから」
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