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「俺も、あれは嫌だった。駅で……」
「ああ。私も嫌だった。八重嶋さんと二人で出張なんて。婚前旅行みたいで」
「婚前て……そんな訳ないでしょ、こっちはただの出張。それよりあの人は?」
「ああ、三枝さん? あの人は兄が私に紹介してきた人で」
「兄が、新潟で?」
「そう。兄の友人の弟って」
「そうか」
「あの時はもうはっきり断った後で、たまたまこっちに仕事で来ないといけなくなって、一緒だっただけ。あれから会ってもいないけど、岳君にどうしても紹介してほしいって頼まれて、もしかしたらイルマリに来るかもしれない。場所は教えてあるから。岳君の大学のOBで、業界では有名な人らしくて、すごく尊敬しているんだって」
「陽に相手ができたんだろうなって思ったら、動揺して、もうその時点で、あなたを自分の側に置いておきたくて、どうしようもなかった。誰にも触らせたくないって。想像すると腸が煮えくり返るって、そういうのも初めてで」
自分の気持ちに気が付くのが遅すぎた。間に合って良かった、と言って笑った。
「私も深谷さんを誰にも触らせたくない」
いろいろ思い出して涙ぐむと
「誰も触らないよ。陽しか。この数か月、あなたの事しか考えてない」
おいでと言われて近付くと、優しく、強く、抱きしめてくれる。
深谷さんが甘い。
相当甘い。
ドーパミンとセロトニンの効果で私達は、興奮と幸福感を、何度も行き来した。
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