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「陽さんがあの王子と一緒にいた時に、会ったでしょう? 駅で。あの後なんて、燃えちゃって、嫉妬で。やさぐれてすっごい不機嫌だったんだよ。あ、これは本気だ、深谷さん本気だって、わかったわけですよ」
あの日、辛い思いをしたのは私の方だと思っていた。
「前の日からおかしくて。私との噂を、渡会さんが本気にしてるって話したらものすごく動揺して、だったら弁解したら? って言っても、興味があるわけない、聞かれてもないのに何て言えばいいんだって落ち込んで、やけ酒飲んで次の日遅刻ですよ。あんなおかしくなったところ見たことないから、心配したけど、翌週からはまた意地張って、仕事の鬼みたいになっちゃってるし、私も片足半分突っ込んで迷惑おかけしてるものだから、罪悪感で毎日もどかしくて」
八重嶋さんなりに、かなりやきもきしていたらしく、あの頃の三角関係を想像すると、間抜けすぎて笑えてくる。
恋とは、これほどまでに回りが見えなくなるものなのか。でもそんな風に自分を見失うような恋を私がと思うと、少し誇らしい気持ちにもなる。
「……なんかさ、八重嶋さんてイメージと違うよね」
「でもほんと綺麗。エステとか、行きまくってます?」
「まさか。エステなんて行かない、高いじゃない。あ、実家暮らしですけど」
「実家? 彼氏は?」
「いない、それに外見に釣られて寄ってくるような人は私の事知るとドン引きして離れていくからかえって気楽ですよ」
「八重嶋さんが言うとものすごく納得してしまうんだけど」
「それに私、長年どうにもならない片思い、拗らせてますしね」
「「ええーーっ!?」」
まぁ、皆いろいろある。
上手くいくこと、いかないこと。
「そういえば、つい先日の騒動、渡会さん知ってるの?」
「騒動?」
「聞いてないか。深谷さんから。自分では、言わないか」
「え、それもしかして、富永統括マネージャーと深谷さんの……」
「そう。それ」
「なに?」
「めっちゃ格好良かったー。あれは確かに、男前だった」
「何!?」
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