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「ただいま」
「おかえり。……なに? どうした?」
奏一郎君の顔を見た私は、相当複雑な顔をしていたらしい。
「奏一郎君の悪事をいろいろ聞いて……」
「え? 藤城さんと仲原さんと一緒なんじゃなかった?」
「あと、八重嶋さんも」
「八重嶋……あいつ」
私は急いで、奏一郎君の口を手で塞ぐ。
「止めて。八重嶋さんの事を親しげに言うの。かなりトラウマなんだから」
「……何を聞いたの? 嘘かもしれないよそれ」
「富永統括マネージャーとの話とか」
「ああ、この前の。あれは、あの人のわざとだよ。元々話してあるんだから知ってるくせに、俺の事煽って。でも多分あれは〝三角関係で略奪した渡会さん〟ってのを払拭したかったんだろうな」
富永統括マネージャー……。
「それから、八重嶋さんのお友達の話とか。大学時代の深谷さんの……」
「どの話か分からないけど、なんとなく予想はできるけど、その時の俺と、今の陽への気持ちは違うから」
「私今更、無償の愛とか無理かもしれない。ああでも、一緒に居られるのならそれでもいいのか」
「何をどう聞いたの。恐ろしいんだけど。それよりキスしたいんだけど」
「やだ、外から帰ったばかりだもん。……うがいして、顔洗ってからね?」
「……いいよ」
優しいけれど、相手の女性に執着しない、冷淡な男。そんな顔も、もしかしたらあるのかもしれないな。
比較対象がないからわからないけれど、私にとっては十分、お腹一杯な愛情をもらっていると思う。
今日もほらこんなしてベタベタベタベタ。
性的な意味だけじゃなく、奏一郎君はいつも自然に触れてくる。
手を繋いで、引き寄せて頭にキスをして、そうするのが当たり前のように。
「陽が足りない」
嬉しくて、尻尾振っちゃいますけども!
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