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数日後、奏一郎君と兄が初めて会った。
待ち合わせより早い時間に着いて、よりによって手をつないで、私が一方的にポーッと見惚れている時に、真後ろから登場した。
「おい」
「あっ。おに、お兄ちゃん!!」
「お前が人前で、手をつないでいちゃつくとはねぇ」
ニヤニヤして、ムッかつく。
自分だって由梨ちゃんを未だに溺愛して、手だって繋いでいるじゃないか!
「いいの! 私はずっとこういう事やってこなかったんだから」
顔面が、どんどん沸騰して真っ赤になっていくのがわかる。
「別に悪いとは言ってない」
恥ずかしくて取り乱す私とは対照的に、奏一郎君は、言わずもがな冷静。
「初めまして。深谷奏一郎です。陽さんと、おつき合いさせていただいています」
「初めまして。渡会浩己です。陽の兄です」
「……」
「なんだ、お前は。にやにやして」
「あなたに笑っているわけではありません」
「大丈夫ですか、深谷君、この人で」
「はい、大丈夫というか、陽さんでないと俺が困ります」
「ひとりで勘違いしてあれだけ泣いたくせに、どうなってるんだよ」
「その節は、大変ご迷惑を(陽)」
ひどい目にあった。と言って笑った。
「言っておきますけど、けして過保護なわけではないんです。この人が勝手に、都合よく調子よく俺に頼ってくるだけで。俺に気を遣う必要は全くないから」
やっと荷が下りたというか、今後はその役目は深谷くんお願いね、と余計なことを。
「お兄さんと会ってみて、三枝君が言っていた意味がわかりました」
「三枝君? 千諒くん? なんで?」
「たまたま、俺と陽さんの行きつけの店で会って、一緒に飲んだんです。二人で差し飲みみたいになっちゃって」
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