最終章・これからちょっと、遠くまで side F / side W

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「千諒君といい、深谷君といい、陽 お前、一生分の男運を使い果たしたな」 「なにそれ」 「陽さんは、浩己さんみたいな人が近くにいるから周りが石ころに見えるんだろうって、三枝君が」 「ちょっとそれ、奏一郎君まで言うの? 嫌なんだけど」 「こんな可愛い妹がいたら当然と思いますけど」 「まぁ、可愛いよね。あほで」 「感謝しています。俺にだけ、隙を見せてくれたから」  お兄ちゃんが愉快そうに笑った。 「妹のこういう話はむず痒いんだけど、この人は放っておいて、深谷くん、二人で飲みに行こうか」 「は? 私は?」 「陽は帰って、一人でゆっくり眠りなさい」 「い! いつも一人で寝てる!!」 「良かったな。賭けに勝ったな」  優しく笑って、そう言った。  そんなつもりはないけれど、私は、  そうだったのかもしれない。  お兄ちゃんの一言で、涙腺が崩壊した。  私が何よりも欲しかった、大切な人。 会うべき時に会えるって、そう信じていた。 「また泣く」  私の涙には慣れつつある奏一郎君が、鞄からハンカチを出してくれる。 どうかこれからもずっと、その役目は奏一郎君でありますように。  その後、本当に兄と奏一郎君は二人で、イルマリに飲みに行ってしまった。 後から聞いた話だけれど、陽の顔を見れば幸せかどうかすぐわかると言って、喜んでくれていたらしい。  いろいろ心配かけて、少しだけご迷惑も。 ありがとうって思った。 照れ臭くて、絶対に言えないけれど。
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