最終章・これからちょっと、遠くまで side F / side W

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「ねぇ、これからどこに行くの?」 「どこに行く? どこまででも、行けるところまで行ってみようか」 「え? 帰って来られなくならない?」 「陽」 「なに?」 「俺を見つけてくれてありがとう」 「……こちらこそ、ありがとう。これからもよろしくね」  不意打ちで、こういう事を言ってくるから参る。 やめてよ。また、目頭が潤むじゃないか。 どこでそんな甘い言葉を覚えてくるのやら。 「今日さ、このまま温泉に一泊しよう」 「は!? なにも持ってきてない」 「ある。着替えとかもろもろ」  どおりで、荷物が多いと思った。  はじめから、そのつもりだったのか。 私の着替えやらなにやら、いつの間にか把握していて恥ずかしい。 「浴衣着て美味しいもの食べてしっぽり」 「最高だね」 「誕生日プレゼントとは言い難いね。俺が楽しみにしているだけだから」  二人でいる場所が、私たちの世界の中心。  私たちはこれから二人で、どこにでも行ける。  まだ始まったばかりの未熟な二人で、思い通りにならないことも、多々あるだろうけれど。  あなたがいれば、私はなんにも怖くない。 遠く、海の匂いを感じながら、そう思った。 END
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