1.恋とか愛とか、わからないものはわからない

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** 『もしもし(よう)ちゃん? 今大丈夫~?』    定期的な実家の母からの電話である。 「大丈夫だよ。今帰ってきたところ」 『変わりない?』 「うん変わりない。元気」  急用でなければメールでお願いと言っても聞いてはもらえない。私は電話が苦手だ。 『ところでね、近田さんが今年度で退職することになったの。陽 あなた、こっちに戻ってくる予定ないわよね?』 「うん、ない。今のところは」  私の実家は、地元ではわりと名の知れた老舗の麹やを生業としている。  まだ現役の父親と、そのあとを継ぐ予定の兄と二人で経営している。 兄はすでに結婚しており、子供も二人いる。  長く勤務している事務の近田さんが、結婚して県外へ引越しするのを機に退職するという。すごくおめでたい事だけれど、淋しくなるな。姉御肌で仕事もバリバリの近田さんを、私自身実家を出るまでは姉のように慕っていたから。 「おめでたいね。私もお祝いしたい」 『そうね。結婚式は今年の秋頃みたい』  誰かが退職する時、まず私に話が来る。  戻ってくる気はないのかと。  地元に帰って来る気はないの? と、いう意味で。親がそれを強く願っているわけでは無さそうだが、必ず連絡してくる。
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