1.恋とか愛とか、わからないものはわからない

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 両親はいつも、私の意思を尊重してくれて、こうしろああしろと言われたことはない。信用されていることがありがたい。  けれど、本当のところどう思っているのだろう。帰ってきて欲しいのかな、地元に。 私自身〝このままでいいのか?〟という漠然とした思いが最近はどこかにあった。 「今のところ仕事辞める気はないし、私は当てにしないでいただいて」 『そうよね……。わかった、はい』  いつもと同じ会話いつもと同じやりとり。でもなぜか、いつもより歯切れが悪い。 『──あのねえ、陽ちゃん、あなた』 「なに?」 『一度聞いておきたかったのだけれど、結婚する気ないの?』  え? 「結婚? どうしたの突然」 『だって、お兄ちゃんの彼女は何度か紹介してもらったけど、あなたの相手は見たことがないから』 「え、あ、それもそうだね」 『子どもを産みたい気持ちがあるなら、そろそろ考えないといけない年齢じゃない?』 「子ども……」 『女性は男性と違って、妊娠出産の適齢期があるって話よ』 「どうしたの突然」 『そっちで誰かいないの?』  母から、私の結婚の話を振られたことなど一度もなかった。気にする事あったんだ? 「お相手はいませんけど」 『じゃあ、ぼちぼち考えたほうがいいわよ。陽ちゃんもいつまでも若くないんだから』 「えー」 『えーじゃなくて』  ほんと、どうしたんだろう。突然母は。 『あとあれね、味噌送っておいたから』 「ちょうど無くなりそうだった。ありがと」 『藤城さんの分も一緒に入れておいたわ』 「ああ、ありがとう 喜ぶよ」  ほんとは少し戸惑った。  聞かれて嫌だったからではない。 年齢的にはたしかに、焦らない私の方がおかしいのかもしれない。  恋愛や結婚から大分遠いところにいる私。  正直、あまり考えた事が無い。
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