第六話:よふかしをしよう

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第六話:よふかしをしよう

 世界が朝日を迎えた頃のことである。 「わああーーーっッ!!」  ユメコが叫び声と共に飛び起きたものだから、隣で寝ていたネクロマンサーもビックリ仰天して跳ね起きた。 「どッ……どうしたユメコ、大丈夫か!?」  上体を起こして放心状態の少女の肩に触れ、魔法使いは狼狽した声と共にユメコの姿を見渡した。彼女はおそるおそるといった顔でネクロマンサーの方を見るや、ぶわっと涙を溢れさせる。 「……生きてた~~~っっ!!」  力いっぱいに飛びつかれ抱きつかれ、ネクロマンサーは「どわあ」と布団に押し倒される。ユメコから猛烈にぐりぐりと額を押し付けられている。魔法使いはユメコを抱きしめ返し、なだめるようにぽんぽんしながら、合点がいかない様子で尋ねた。 「生きてたって……何が? どゆこと? どしたのユメコ?」 「あのね、あのね、ネクロマンサーがね……ゆめの中でおきないの。ずっとずっとおきないの……よんでも、ゆさゆさしても、ぜんぜん……」  ぐすぐすしながらユメコは続ける。 「それでね、しんぞうの音がしないの。息してないの。ネクロマンサーが死んじゃってたの……」 「なるほどそれで、ビックリして飛び起きたのか」  ネクロマンサーに優しく後頭部を撫でられて、少しずつ落ち着いてきたユメコは「うん……」と小さく頷いた。 「ネクロマンサー、生きててよかった……こわかった……」 「うんうん、怖かったね。俺は生きてるよ、大丈夫。心臓の音が聞こえるだろ?」  彼にそう言われ、ユメコは頭を傾けて耳をその左胸に押し当てた。どくん、どくん、確かに鼓動の音がする。その音を聴きながら背中をゆったり撫でられていると、ユメコは安心に包まれた。 「よかった……」  やっと涙と不安が治まった。でもそれも束の間、今度は別の不安がユメコの心に湧き上がってくる。 「……ネクロマンサー、いつか死んじゃう?」 「まあ、人間だから、いつかはね」 「やだー……ネクロマンサー、いなくなっちゃやだー……」 「寿命で死ぬ以外で、いなくなったりしないよ」 「じゅみょう……」 「寿命はね、もうしょうがない。どんなものもいつかは朽ちる。人間もゾンビも、地球も」 「やだー……」 「嫌かー」  ネクロマンサーは自分の体の上に乗った少女を抱え、ごろんと横になると共に彼女を隣に寝かせた。布団を引っ張って、その体に被せる。ユメコはネクロマンサーに引っ付いて離れない。 「俺は……いつかは寿命で死ぬよ。ユメコだって、いつかは体が朽ち果てて消える。何事にも終わりはある。だけどさ、ユメコ。終わる時のことばっかり考えて、今が楽しめないと、もったいなくない?」  ユメコは無言のまま、大人しく聞いている。ネクロマンサーはしがみついてくる小さな体を布団の上からゆっくり撫でながら、言葉を続けた。 「終わりの時に、あー楽しかった~って思えるようにさ、今はヤケクソでもいいから楽しいことだけ考えてようよ。そうしたら、終わりの悲しみを感じてる暇なんてなくなるさ」 「たのしいこと……」 「こないだのプール、楽しかったろ?」 「うん」 「お誕生日は?」 「たのしかった」 「一緒にお勉強したのは?」 「……たのしかった」 「泡風呂は?」 「たのしかった……」 「毎日、一緒にごはんを食べるのは?」 「すき」 「な? 悲しいことを考えるより、楽しいことしようよ。これからも一緒に、いっぱい」 「……うん」  ユメコは濡れた目元を、ネクロマンサーのTシャツで拭った。 「ネクロマンサー、だいすき……」 「俺もユメコのこと大好きだよー」  心からの言葉だ。だからこそユメコは心にじんわりと温かいものを感じる。  言葉の途切れた部屋は静かだ。朝日がカーテン越しに差し込み、ほの明るい。ユメコは目を閉じることができず、布団の中の暗がりをボンヤリと眺めている。 「ねたくない……」 「そっかー」  ネクロマンサーは叱ったりはしなかった。また怖い夢を見そうで嫌なんだろう、と彼は少女の心中を慮る。 「じゃあさ、ユメコ」  魔法使いは布団をパッとめくりながら、声を弾ませた。 「やっちゃう? 夜更かし。夜更かしっていうか朝更かしだけど、まあ朝は夜の延長線だ!」 「……よふかし?」  布団を取っ払われ、ユメコは顔を上げてネクロマンサーの方を見て、首を傾げる。 「よふかしって、なにするの?」 「んー……夜食を食べたり、コンビニに行ったり、テレビ見たりゲームしたり」 「ほえー」 「……近くのコンビニに行って、なんか食べるもの漁りに行くか!」 「行く!」  ユメコが上体を起こす。ならばとネクロマンサーも勢い良く立ち上がった。 「よっしゃ! 今夜は夜更かしだ!」 「よふかしー!」
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