A ファースト・ネーム

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A ファースト・ネーム

「い、イヤ。私、そんなこと出来ない…」 「どうして? 君は俺の妻だろう。 それぐらい出来ない筈はない」 「お願い、許して」 妻は、夫の足下にひれ伏した。 ここはさる地方都市。 とある夫婦が暮らすマンションの、リビングルームである。   「ダメだよ、さあ…」 夫の声はあくまで穏やか。 しかしそこには、じわじわと真綿で締め付けるような響きがあった。 彼はゆっくり膝を折ると、項垂れた妻の顎に手をやり、上向かせた。 妻の顔に諦念の色が浮かぶ。 夫の顔に愉悦が広がった。 「さあ……」
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