A ファースト・ネーム

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「結婚式の後には言ってくれたじゃないか。トーコ」 「わ、私をその名で呼ばないでっ! アレは特殊な条件下だったから。 …日常生活に戻るとね、また違うんですよぅ」 モジモジと人差し指をあわせてみせる。 確かに結婚式の夜、ホテルのスウィートルームで、彼のことを名前で呼んだかも知れない。 だが…とても言えない。 私はね、貴方のその甘~いお声に弱いんですよ。 耳元であなたが囁く私の“ファースト・ネーム”。 聞いただけで、身体の芯が蕩けてって… オカシクなっちゃうんですよーーー! だから。 こんな状態で、名前を呼びあうなんてとんでもない。 私はきっと気絶する。   と、   「どうしても言ってくれないのか…」 彼は打ち捨てられた仔犬のような、哀しげな目で私を見つめした。 そんな… いつもクールかつシビアなアナタらしくもない。 そんな目で見られたら、申し訳なさでいっぱいになるじゃないですか。 「は、はい。今日のトコロは… でも、明日には必ずや!」 「そっか…」 精一杯に譲歩したつもりだったが、彼は残念そうに頷いた。 取り敢えずの危機を脱したと、ホッとした私は、立ち上がろうと手を床に突く。 と…   「ふっぅ…わ…」 「トーコ…」 耳を… 甘噛みされた。 「な、なな何を、なさっておられるんですかっ」 「お仕置き。 明日できる事は…今やるべきだ。先伸ばし(ペンディング)は、意味がない」
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