731人が本棚に入れています
本棚に追加
「アキトさん、アキトさん、アキトさん!…っしゃ、どうだっ!」
ハァ、ハァ…
あ~、恥ずかしかった。
あれ?
でも言ってみると、何かキョリが縮まったというか、親しみが沸くような気がするな。
すると彼は、蕩けるような笑顔を見せた。
ウンウンと頷き、頭をヨシヨシと撫でている。
お、おお?
極たま~に仕事が成功した時。
カチョーがこうして褒めてくれたら、嬉しかったのを思い出す。
すっかり嬉しくなった私は、調子に乗って、何度も繰り返し名前を呼んだ。
「え、へへ…アキトさん?」
「いいね」
「アキトさん」
「ああ」
「アキトさん♥」
延々それを続けるうちに、彼との距離感がどんどん、どんどん縮まってゆく。
と。
「あれ?」
いつの間にやら、本当に距離が詰められていた。
脳髄の奥に染むような美声が、私の耳に囁きかける。
「じゃあこれは…ご褒美」
「ひゃっ…」
彼は、私の腰を引き寄せて、自分の膝上に乗せた。
片方の耳朶を擽りながら、もう片方をかっぷり銜え、それを舌先で弄ぶ。
「あ…ダメっ…」
カチョー、
ではなくて、アキトさん。
ちょっと、アナタねえ。
さっきからお仕置きとご褒美、一緒じゃないですか。
容赦なく加えられる刺激的な感覚に、フヤケていく脳の片隅でそんなことを考えながら。
私はガックリと事切れた。
「おーい、トーコー…はぁ」
薄れゆく意識の中で、彼の長い溜め息が聞いた。
(A おわり)
最初のコメントを投稿しよう!