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異世界へようこそ
目を開ければ、そこは異世界であった。
オワンクラゲより抽出した、かの有名なノーベル化学賞を受賞した光るタンパク、GFP遺伝子を組み込んだと言わんばかりの、緑色に怪しく光る木々。
そしてシダ植物を彷彿する、特徴的な渦巻きを持つにもかかわらず、被子植物の特徴である花弁を、堂々と咲かせる花々。
虫、草、鉱石までも、どれも、どれも、この一ノ瀬春人が16年かけて築き上げてきた常識なるもが通じない。これは知らない世界、あり得ない世界。
冒頭にもどるが、まさにここは異世界なのだ。
「いや、マニアックにそんな森の細部から異世界堪能してないでさ。
とりあえず周囲全体を観て、率直に驚愕してみようよ。お兄ちゃん」
妹の桜が隣で呆れていた。なんだ、こいついるんだ。どうやら2人で迷い込んだらしい。
気がついた時間にラグがあるのか、桜はいやに落ち着いている。それどころか、どことなく楽しそう。
「やあ、桜、おはよう。
桜は何か知ってるみたいだね。とりあえず、あるだけの情報をくれないか?」
全体を見ろというなら、異世界で浮きまくりの、中学の制服姿の桜が一番異様なのだけど。
まあ、そのおかげで妙に冷静になれたというか、心強くはある。そういえば俺も高校の制服姿だ。最後の記憶はベッドで寝入るときだった。あのあとなんらかの方法で拉致されたなら、寝間着姿のはずだけど。
この状況で桜が取り乱しもせずにいることから、少なくとも今の俺よりはまともな情報を持っているのだろうと期待する。
なんでも訊いてと言わんばかりに前のめりになる桜に、何から訊けばいいだろうか。
まずは無難な、当たり障りのない質問でもするか。特に興味はないけれどね。
「とりあえず、俺たちを神様と仰いでいるかのように、周りで畏れおののきひれ伏している、『わー、ザックリとした中世町民コスですね』って言いたくなるこの人たちは誰?」
「そう!そこ!そこから行ってみようか!
一瞥しただけで、いきなりスルーするから驚いちゃったよ。
この状況で、先に花や虫に気を取られるなんて気の毒でしょ?
まあいいや。不肖な兄のため、優しい妹であるこの私が、しっかりエスコートしてあげますか。
とりあえず……、
異世界へようこそ!
お兄ちゃん」
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