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その竜の名は、雷牙。嵐の神に仕えていた。
主からの命を受け悪神の眷属と戦うも、相手は彼よりひと回り歳上で、はるかに戦い慣れしていた。比べて雷牙は青二才の未熟者だったと言わざるを得ない。
数多の雷の槍で貫かれ、彼は絶叫を上げながら地に落ちた。
かつてない屈辱だったが、彼はそこまで頭が回らないほどの大怪我を負った。まさしく瀕死の状態だった。
かすみゆく意識のなか、彼は人間たちが己を遠巻きに見ているのがわかった。だが誰も近づいてはこない。神の僕たる彼を畏れるあまり、介抱さえためらっているのだった。
それに雷牙のほうも、人間に介抱してもらえるとは思っていなかった。その時の雷牙は人間を「小さく力なき、守るべき存在」と思っており、神のお側近くに仕える己をどうこうすることなどできまい、と考えていた。当然、怪我の手当てなどもできない。
(悪神の手先に敗れ、慌てふためく小さき者どもに見物されながら死ぬ、のか……。ずいぶんと情けないな、我ながら)
意識がさらに遠のいてゆくなか、そんなことを思った。
そのときふと、自分のそばに誰かがひとり近づいてきているのを感じた。
「大丈夫……?」
声からして、少女のようであった。
「……あ、生きてる! 生きてるのね!」
雷牙が眼だけを動かして声の主を見ると、少女は手を叩いて喜んだ。
「……ごめんなさい。ちょっと触るわね」
少女はおそるおそる雷牙の身体に手を伸ばした。彼の身体には、大小数え切れないほどの傷があった。
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