番外編:Hallo Baby 妻を溺愛する夫達編① -無口な彼コラボ-

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番外編:Hallo Baby 妻を溺愛する夫達編① -無口な彼コラボ-

新婚旅行から帰国して2か月が経った頃、彼女の様子が少しおかしいことに気付いた。 何だかしんどそうにしてたり、やたら眠そうにしていたり。 気持ち悪そうにしていて、ご飯を食べない事もある。 そうかと思えば、急にフライドポテトが食べたいって言いだしたり。 「ねえ、体調悪いの?」 「え?あ~、うん…」 何だか歯切れが悪い。 ジッと見つめると、観念したかのように、口を開いた。 「ちゃんと診てもらってから、と思ったんだけど…」 「うん。何?」 「…妊娠してるみたい。」 「本当?!」 「まだちゃんと病院では診てもらってないけど、検査薬は陽性だった。」 「何で早く言わないの!」 「ちゃんと確定して、エコー写真貰ってからの方がいいかなって思って。」 彼女が妊娠している。 その事に、驚きよりも喜びの方が大きい。 「病院、いつ行くの?」 「明日行こうかなって。」 「分かった。俺も一緒に行くよ。」 「え?でも仕事…」 「最初ぐらいは一緒に行きたい。」 今後、いつも診察に一緒に行く事は出来ない。 だからせめて、妊娠してますよって言われる瞬間は一緒にいたい。 同じタイミングで一緒に喜びたい。 彼女は少し迷っている様子だけど、俺はすぐに主任に連絡を取った。 「…明日は特に大事な会議もないし、急ぎの業務もないからな。上には俺から言っといてやるよ。」 「ありがとうございます。」 「妊娠したら、女性の体は大変になるからな。大事にしてやれよ。」 主任にはすでに子供がいるから、経験からの発言なんだろう。 でも俺は、多分この時はまだ、本当には意味を理解していなかった気がする。 ************ 「初診ですか?」 「はい。」 翌日、2人で近所の産婦人科へとやってきた。 当然周りは、女性だらけ。 だけど、1人だけ男性の姿も見える。 仲間がいた事に、どこかホッとした気持ちになったのは、この特殊な環境のせいだと思う。 受付が終わり、座る席を探していると、突然「あ!」という大声が聞こえた。 思わずそちらを見ると、声の主は、先程の男性の隣に座っている女性らしい。 「あれ?あの2人…」 「ん?どうしたの?」 何故かその2人の元へと歩み寄っていく彼女の後を、慌てて追いかける。 「あの…以前旅行中に、飛行機とホテルが一緒でしたよね?」 「はい!」 相手の女性が一気に笑顔になった。 でも、俺は訳が分からない。 「誰?」 「前に言ったでしょ。新婚旅行の時に見かけた素敵なご夫婦だよ。」 そういえば、新婚旅行中にそんなことを言っていたような…? でも、正直この2人には見覚えがない。 何なら、さっきから旦那の方には厳しい目で見られていて、ちょっと嫌な気分だったりする。 さっきは唯一の仲間のような気持ちだったのに。 何だか裏切られた気分だ。 その奥さんと話し始めた彼女は、何だかすごく楽しそう。 一方俺達男2人は、無言で嫁を見つめるだけ。 でも、何となく分かったことがある。 この人、奥さんの事凄く好きなんだな。 奥さんを見つめる目が、すごく優しいというか、愛しいって思ってるのがよく分かる。 もしかしたら、さっき睨まれてたのは、牽制とか嫉妬的な物だったのかもしれない。 俺だって彼女の事を愛してるから、他の女には興味なんて無い。 だけど、見た目で遊んでそうと思われてしまうのは、今でも変わっていないらしい。 俺の最大の悩みだ。 診察に先に呼ばれたのは、その2人だった。 泉さん、と言うらしい。 「じゃあ、お先に。」 そう言って診察へと入っていく2人を見送る。 「あの2人もね、妊娠の検査に来たんだって。」 「へ~。」 「妊娠してるといいよね。」 「俺達もね。」 「そうだね。」 しばらくして、泉さんと入れ替わりに呼ばれた俺達が診察室へと入る。 結果は、妊娠だった。 検査薬で陽性ならほぼ確定とは聞いていたけど、彼女が、それでも正常な妊娠じゃない可能性はある、なんて言うから、ちょっとドキドキしてたんだ。 「おめでとうございます。3か月に入った所ですよ。」 そう聞いた時、俺は思わず彼女を抱き締めそうになって、自重した。 後で家に帰ったら思う存分抱き締めよう。 2人でこの喜びを分かち合うんだ。 そう誓って、彼女の手を握るだけに留めた。 待合室に戻ると、泉さん夫婦がまだいることに気付いた彼女が、躊躇なく寄って行く。 お互いに妊娠している事を確認して笑い合っている姿は、幸せそのもの。 気が合ったらしい2人は、連絡先を交換したようだった。 でもまさか、彼女が泉さんと毎週のように休日にお出かけして、1人で家に残されるようになるとは思ってなかった。 「ねえ…最近さ、よく2人でお出かけしてるみたいだけど、何してるの?」 「え?お茶しながら色々お互いの体調の事話したり、赤ちゃんに必要な物買ったりしてるだけだよ?」 「そういうの、俺が一緒にやりたいんだけど。それに休みの日にさ、家で1人で居る事多くなってて、すっごく寂しい…。」 「あ…ごめんね。そんなつもりじゃなかったんだけど…」 「女同士で楽しいのは分かるけど、今週は俺を優先して?」 「…うん、分かった。」 彼女が一瞬戸惑った様子を見せたから、本当は今週も出かける予定だったんだろう。 でも、今週は絶対譲らない。 そう思っていると、どうやらあちらも同じ状況だったようだ。 あの旦那さんなら、そうだろうな。 俺以上に限界来てそうだ。 週末、久しぶりに彼女を独占出来た俺は、すごく幸せだった。 やっぱり彼女といると、疲れが取れて癒される。 正直にその気持ちを伝えると、はにかむように微笑んだ彼女は、毎週のように出かけることは無くなった。 *********** 「あのね…両親学級行かない?」 赤ちゃんの性別が男の子だと分かった後、彼女から一枚の紙を渡された。 「両親学級?」 「そう。これから親になる夫婦に向けての、講座みたいなものなの。綾音さんにも声かけたんだけど、4人で行けたらいいなって。」 資料を見てみると、妊婦体験や沐浴体験なんてものもあるらしい。 「いいよ。ためになりそうだし、参加しよ。」 気軽な感じで参加することに決めた両親学級で、俺は妊娠・出産に対する自分の認識の甘さを、思い知ることになるのだった。
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