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番外編:Hallo Baby 妻を溺愛する夫達編② -無口な彼コラボ-
「重っ」
「重い…」
両親学級へとやってきた俺と泉さんは、妊婦体験なるものをやっているわけだが。
めっちゃ重い。
え、妊婦さんってこんなに重いお腹抱えてんの?
本当動きにくいし、これで足先とか触れないんだけど。
ていうか、腰痛くなりそう。
『妊娠したら女性の体は大変になるからな。大事にしてやれよ。』
あの時の主任の言葉がふと頭を過ぎる。
そりゃこんな風になるなら大変に決まってる。
それにきっと、単純にお腹が大きくなって重いだけじゃない。
隣の泉さんを見ると、難しそうな顔をしている。
この人も多分、同じようなことを思ってるんだろうな。
「さっきの、どうでした?」
「?」
「重くなかったですか?俺は正直、あんなに重いとは思ってなくて、彼女の体が心配になりました。」
「…ああ。俺も。これからは、毎日抱っこして歩くか…」
いや、それはやり過ぎだろ。
自分が居ない時はどうするんだよ。
この人の思考面白いな。
それだけ奥さんの事が好きってことなんだろうけど。
「抱っこはどうかと思いますけど、でも本当、何かしてあげられることないかな、とは思いますよね。」
「してあげられること…」
2人で頭を捻るけど、何にも出てこない。
「あ!主任に聞いてみたらいいのか。」
「主任?」
「俺の上司なんですけど、まだ小さい子供がいるんです。愛妻家だから、何か奥さんにしてあげてたかも。」
「なるほど…」
「同じ愛妻家同士、主任に教えてもらいましょう。」
「愛妻家…」
「あれ、違いました?」
「いや…綾音の事は愛してるから、間違ってはない、けど…」
そう言いながら、ちょっと顔を赤くしている泉さん。
何故かこっちまで照れてくる。
「俺も、奥さんの事凄く愛してるので。似た者同士、仲良くしましょう。奥さん同士も仲が良いことだし。」
「…ん。」
話していると、俺より10歳以上年上ということに驚きつつ、涼介さんと名前で呼ぶことにした。
「主任に話を聞いてみて、何かいい情報があれば伝えます。」
連絡先も交換し、家に帰った俺は、主任に早速連絡をした。
「それなら、2人で家に来るか?直接教えてやるよ。」
「いいんですか?」
「ああ。日程の候補何個か作っとけ。」
「分かりました。ありがとうございます。」
さすが主任。
頼りになる男だ。
「ねえねえ、綾音さんの旦那さんと仲良くなったんだね?」
ソファーでのんびりしていたら、彼女に声をかけられた。
「まあね。パパ同士が仲良くなっててもいいかなって。」
「そうだね。でも、何話してたの?真剣な顔だったけど。」
「ん~、内緒。男同士の秘密。」
「ふふっ。そっか。」
嬉しそうに笑う彼女が可愛くて、手招きする。
首を傾げながら寄ってきた所を、一気に腕の中に閉じ込めた。
「掴まえた。」
「もう。」
「今日さ、久しぶりに、しよ?激しくはしないから。」
「…うん。」
そのまま寝室へと彼女を運び込んで、久しぶりに彼女の肌の感触と温もりを堪能した。
それから数日後、日程が調整出来て、涼介さんと主任の自宅へとお邪魔した。
「マッサージ、ですか?」
主任の提案に、俺も涼介さんもキョトンとする。
「両親学級行った時に言ってなかったか?妊婦さんは足がものすごく浮腫むらしい。だから、俺は毎日嫁さんの足をマッサージしてあげてた。」
なるほど。
確かにそんなこと言ってたかもしれない。
お腹が大きくなれば、自分で足を揉むことは出来ないだろうし、良さそうだ。
「でも、どうやって…」
そう。やり方が分からない。
ただ闇雲にマッサージしても、効果がなければ意味がない。
「私が説明しましょうか?」
「ん?ああ、そうだな。嫁さん、結婚する前はエステやってたから、詳しく教えてもらうといい。」
「何言ってるの。あなたがモデルになるのよ。」
「あ、そうなの?」
「ほら、2人に見えるようにそこに横になって。」
へ~。主任の奥さんって、元エステティシャンだったのか。
それは知らなかったな。
「毎日してあげられる、簡単な方法を教えますね。まずは、ボディオイルを手に取って…男性は力が強いので、そんなに力を入れなくても大丈夫です。力加減としてはこのぐらい。」
奥さんが俺達の腕で実際に力の入れ具合を教えてくれる。
「やる時は必ず下から上へ。足の裏から揉んであげてくださいね。指も開いたり閉じたりしてあげると、気持ちいいと思います。後は、ふくらはぎを下から上へ…こんな風に流してあげてください。」
なるほど。
これならまあ、できそうかも。
涼介さんも隣でふんふんと頷いている。
一通りの説明を聞き終えた俺達は、やる時の注意点を聞く。
「使うオイルは、妊婦さんにも使える物じゃないとダメです。肌に合う合わないもあるので、まずは少ない物を買うといいですよ。あと、やる時の体勢は、今はうつ伏せも大丈夫だと思いますけど、お腹が大きくなったら難しいので、横向きでやってあげてくださいね。」
「なるほど。ありがとうございます。」
「…ありがとうございます。」
「お2人の奥様はとても幸せですね。」
女性からそんな風に言ってもらえるのは、嬉しい。
彼女にも喜んでもらえるといいな。
その日、俺と涼介さんは、帰り道に購入した妊婦でも使えるというボディオイルを手に帰宅した。
「ねえ、ちょっとこっち来て。」
「何?どうしたの?」
「ここにうつ伏せで寝てくれる?」
「うつ伏せ?」
怪訝そうにしながらも、ソファーに横になってくれた彼女のスカートを捲りあげる。
「ひゃあっ。ちょ、何してっ。」
「じゃーん。これ何だ?」
「え…?ボディ、オイル?」
「そう。正解。妊婦さんでも使えるやつを買ってきました。」
「…何に使うの?」
訳が分からないという表情の彼女の足に触れる。
パンパンで、押したら指の痕が残った。
それが浮腫みのサインだと、主任の奥さんから聞いた。
「足、浮腫んでる。しんどい?」
「え?そりゃしんどいけど…いつものことだよ?」
「…今日からは、俺が毎日マッサージしてあげるから。」
「マッサージ…?」
「そ。涼介さんと考えたんだ。大事な奥さんの為にしてあげられることないかなって。それで、主任に相談したら、これを教えてもらった。」
「もしかして…両親学級の時…」
驚いた様に俺を見る彼女の頭を撫でる。
「2人の子供を産むために、大変な思いをしてるんだから、これぐらいはさせて?」
「……ありがとう。」
泣きそうな顔をするから、軽く口づけをしてから、教えてもらったことを思い出してマッサージをしていく。
「…終わったよ。」
「ん…」
「もしかして、寝てた?」
「ん…そうみたい。あまりにも気持ち良くて…」
「そっか。それなら良かった。」
「ありがとうね。こんなことしてもらえるなんて思って無かったから…私、凄く幸せだよ。」
そう言って抱き着いて来る彼女を、しっかりと受け止めて抱きしめ返す。
彼女が喜んでくれた事が、俺は何より嬉しかった。
************
そして数か月後。
先に涼介さん達に、可愛い女の子が生まれた。
目は奥さん似だけど、何故か全体は涼介さんに似ている。
多分この子、美人になるな。
その2日後、俺達の元へ元気な男の子が生まれてきた。
立ち会う予定が、まさかの出張帰りの日で間に合わず。
残念だったけど、また次があるか、と思い直す。
「お疲れ様。ありがとう。」
俺と出会ってくれてありがとう。
俺を好きになってくれてありがとう。
俺と結婚してくれてありがとう。
元気な子供を産んでくれてありがとう。
いつも支えてくれてありがとう。
…本当に、この世の誰よりも愛してる。
伝えたい気持ちが多すぎて、とても言葉にはし尽せない。
それは涼介さんも同じだった様で、出産した後、奥さんにはありがとうしか言えなかった、と言っていた。
でも多分、お互い奥さんに気持ちは伝わっている気がする。
俺と涼介さんが揃って病院へと来た時、4人で我が子達を見つめていると、ふと彼女がとんでも無い事を言い出した。
「同い年で丁度男女だし、もしかしたら将来結婚したりして。」
「ふふっ。それもいいね。」
奥さんたち2人は何だか楽しそうに盛り上がっているが、俺達は呆然と我が子を見た。
「嫁に、行く…?」
「え、涼介さんに殴られるの?俺の息子が?」
確かに涼介さんの娘は美人になると思う。
うちの息子もきっと男前になるはずだ。
でもそれとこれとは別。
「涼介さん。もしそうなっても、俺の息子殴らないでくださいね。」
「…その前に、嫁には、行かさない。」
奥さん達に、まだどうなるか分からないんだから、と言われても、一度想像してしまった未来予想図は、中々俺達の頭の中から消えてはくれないのだった。
ーーーEND---
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