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元ナンパ君の純愛 ④
一緒に暮らす事に決めた後、すぐに行動することにした。
まずはどの辺りにするのか。
彼女と俺の職場の位置関係から、どこが通勤しやすくて住みやすいのか。
俺の会社寄りの地域が色々な意味でベストに思えた。
彼女の通勤時間が少し伸びてしまうけど、乗り換えなしで行ける。
「私は夜勤はあるけど、残業はほとんどないから気にしなくていいよ。君の方が残業あったりで大変なんだから、少しでも近い方が楽でしょ?」
彼女のこの言葉が決め手となった。
後は、そこで部屋を探すだけ。
そう思ってたけど、そう簡単には進まなかった。
まずは部屋の広さ。
彼女は1LDKでいいと言うけど、将来の事も考える俺は2DKは欲しい。
じゃあ家賃から部屋の広さを決めようと思っても、折半したい彼女とほぼ出したい俺。
なかなかうまくいかないもんだ。
「どうしても半々がいいの?」
「だって、君はまだ就職したばかりだよ?なのにほとんど家賃出してもらうなんて出来ないよ。」
「でも半々とか面倒じゃん。」
「毎月交代で家賃払えば面倒じゃないでしょ?」
それ以外にも、光熱費や食費、共同で使う日用品もどうするのか…
一緒に暮らすのって簡単だと思ってたけど、色々と大変だ。
そしてもう一つ。
彼女が、一緒に暮らすのであれば、一度お互いの家族に会った方がいいんじゃないか、と言い出した。
それに関しては、俺自身も早いうちにしておきたいと思っていた事だったから、異論は無かった。
俺の両親は、多分喜ぶだけだろう。
なんせ俺の女遊びについて、勘づいている節があったから。
ちゃんと彼女を紹介したことも無かったし。
問題は彼女の両親に、俺が受け入れてもらえるかどうか。
見た目がどうしても遊んでる風に見えてしまうらしい俺は、果たしてちゃんと認めてもらうことが出来るんだろうか。
***********
俺の実家は田舎だけど、電車で一時間かからないこともあって、善は急げとばかりに休みが重なった今日やってきた。
「大丈夫かな…お土産これで良かった?服変じゃない?」
朝から彼女はずっと緊張しているらしく、同じことを繰り返している。
「大丈夫だよ。これなら親も喜ぶし、服も変じゃない。いつも通り可愛いよ。」
「本当?」
俺と同じで、彼女も相手の親に会うのは初めてらしい。
次は俺の番だなと思うと、彼女の緊張も他人事ではない。
少しでも解してあげたくて、頭をポンポンとしてあげると、ちょっと笑ってくれた。
「さて、行くよ。」
「…うん。」
覚悟が決まった彼女を連れて、実家のインターホンを押すと、聞こえたのは母親の声。
「いらっしゃい!」
ドアが開くと共に勢いよく出てきた母親に迎えられる。
これは楽しみで仕方なかったんだな。
満面の笑みの母親とは対照的に、緊張して硬くなってる彼女。
母親に促されてリビングへと向かうと、そこに父親の姿があった。
「お父さん、来たわよ。」
「そうか。」
父親も緊張しているのか、顔が強張っている。
彼女の事を簡単に紹介すると、4人でソファーに座った。
「これ、お口に合うか分からないんですが、よろしければどうぞ。」
彼女セレクトのお土産を渡すと、母親が嬉しそうに受け取る。
「こういうの憧れてたのよ。息子の彼女に会うのなんて初めてだから、お父さんも私も緊張しちゃって。」
母さん絶対緊張なんかしてないだろ。
と、心の中だけで反論する。
「ふらふらし続けてるんじゃないかと心配してたから、彼女を連れてくるって聞いた時には本当に驚いて…しっかりした方で本当に安心。」
その言葉に、彼女がやっといつもの笑顔になった。
お茶を飲んだ後、母親が小さい頃のアルバムを引っ張り出してきて、彼女に見せ始めた。
小さい頃の俺の話をしているのを聞きながら、少し恥ずかしくなる。
彼女が嬉しそうに見ていたから、まあいいか。
「夕飯食べて帰るんでしょ?」
思い出話で盛り上がって、気付いたら夕方。
母親の言葉に、目だけで彼女にどうするか聞くと、軽く頷いてくれる。
「食べて帰るよ。」
「良かった。あなた達が来るから、母さん買いこんじゃったのよ。あんたが昔好きだったもの、彼女に教えてあげようと思ってね。」
「ありがとうございます。手伝います。」
その言葉に、母親が嬉しそうに彼女とキッチンへと移動していった。
リビングへと残された男2人。
元々あまり喋る方ではない父親だから、リビングは静まりかえっている。
時々キッチンから、楽しそうな2人の会話が聞こえてきて、俺は思わず微笑んだ。
「お前がそんな顔するなんてな。」
「え?」
「結婚を考えてるのか?」
「…そのつもり。」
「そうか。でも、他人と一緒に過ごしていくっていうのは、生半可な気持ちじゃ無理だぞ。」
それは、今回の同棲の件で嫌って程分かってる。こんなに意見が分かれるとは思ってなかった。
それでも俺は。
「彼女以外、考えられないから。」
「…そこまで気持ちが固まってるなら、何も言うことはないな。」
それっきり、父親は喋らなくなってしまった。
夕飯を食べた後、近々同棲することを話したら、反対はされなかった。
「じゃあ、帰るわ。」
「またぜひ来てね!」
「遅くまでお邪魔しました。」
「…息子の事、よろしくお願いします。」
父親が初めて彼女にかけた言葉。
2人の事を認めてくれた事が分かる言葉に、嬉しくなった。
帰りの電車では、彼女はずっと笑顔だった。
「だから、心配することないって言ったでしょ。」
「でも、やっぱり不安だよ。ちゃんと認めてもらえるのかどうか。」
まあその気持ちは分かるけど。
「お母さんに教えてもらった料理、今度作ってあげるね。」
「楽しみにしてる。」
次はいよいよ俺が彼女の実家に行く事になる。
予定では来週末。
彼女には、一人弟がいるらしい。
それもまた不安要素だ。
「どうかしたの?」
「ん?ううん、何でもない。」
彼女の家に戻ってきた後、俺は難しい顔をしていたらしい。
心配そうな顔をする彼女を抱きしめる。
彼女を手離すことは出来ないし、頑張るしかない。
俺は、決意を新たに、その日を待つことにした。
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