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元ナンパ君の純愛 ⑦
お互いの家族に了承してもらった後、本格的に部屋探しを始めた。
住む地域は決まってるから、とりあえず不動産屋を探して、2人暮らし可能な部屋を2人で色々見て回った。
結果、2LDKの築15年の部屋に決めた。
広さはもちろん、家賃もお手頃。
彼女も俺も、とても気に入っている。
「いいお部屋が見つかって良かったよね。」
「だね。周りの環境も良さそうだし。早く一緒に住みたい。」
引っ越しは、1か月後。
家電はどちらのを使うかとか、家具もどうするかとか、色々決めなくちゃいけない。
そして、前に意見がまとまらなかったお金問題。
結局、家賃は毎月交代でということになった。
食費は光熱費と一緒に家賃を払わない方が負担することにした。
料理をするのはお姉さんが殆どだから、食費の使い方はお姉さんに一存する。
後の、個人で使う以外の日用品は、そう高い物もないし、気付いた方が買う事でお互いに納得した。
何か問題があれば、やってみながら変えていけばいいと思ってる。
なるべく早く、そんなややこしいことをしないでいい関係にしたい。
仕事をしながら、色々決めたり、いらない物を捨てたり売ったり…
あっという間に引っ越しの日が近づいてきて、慌てて荷造りをする。
「あ、これお姉さんと初めて行った旅行の写真だ。」
今年の春、俺の大学卒業後に行ったテーマパークの写真。
まだまだ学生気分の自分を懐かしく思う。
思えば、彼女と出会ってから、もう2年経ったんだな。
最初は、少しの気まぐれで声をかけただけだったのに、まさかこんなに彼女の事を好きになるなんて。
あんなに遊び以外の関係なんて考えられなかった俺が、今では彼女がいない生活なんて考えられない。
変われば変わるもんだ。
結局この日は、思い出に浸ってしまって、全く荷造りが進まなかった。
「いよいよ明日引っ越しだね。荷造り出来た?」
引っ越しの前日、彼女から電話がかかってきた。
出張もあったし、心配していたらしい。
「なんとかね。お姉さんこそ出来たの?」
「ギリギリ出来たよ。…ね、覚えてる?まだ付き合ってない時に、ゲームセンターで取ってくれたぬいぐるみ。」
「覚えてるよ。この前旅行で行ったパークのキャラのやつでしょ?」
「そうそう。なんかあれ見たらね、君とのこと色々思い出して、荷造りが全然進まなくて。」
「俺も。この前の旅行の写真見ながら、お姉さんとの今までの事思い出してた。」
お互いに同じような事を思っていたことが、くすぐったくて嬉しい。
明日からは、同じ家に帰れる。
2人の関係が、また一歩進む気がした。
翌日の引っ越しは本当に大変だった。
お互いの荷物を運びこんでもらってからの荷解き。
家具や家電の設置。
ベッドだけは、新しくしたから、それが届くのを待って設置して…
朝から初めて、ある程度片付いたのは夜。
お互いにもうクタクタだった。
ふとリビングの一角を見ると、昨日言っていたぬいぐるみが飾ってあった。
ブライダル衣装のそのキャラ達を眺めていたら、彼女が後ろから近づいて来る。
「その子達、いつも見てたから、すぐに目に見える所にいないとなんだか落ち着かなくて。」
「そっか。いいと思うよ。」
俺にとってもこれは、思い出深いものだから。
付き合う前から俺が、彼女とこうなりたいと思っていた証。
「俺にとっても、大事な物だからね。大切にしてくれてありがとう。」
彼女は一瞬驚いた様な顔をしたけど、すぐに笑顔になってくれて、それが本当に嬉しそうだった。
*************
同棲を初めてからしばらくして、2人が付き合い始めて2年半が経ち、俺も社会人2年目になった。
初めて任されていた大きな仕事が終わったこの日、俺はドキドキしながら自宅へと帰っていた。
鞄の中には、小さなプレゼント。
それを何度も確認しながら、見慣れ始めた道を急ぐ。
「ただいま!」
「おかえり~。今日は早かったんだね。」
「だって、大事な記念日だしね。」
記念日?と不思議そうにする彼女を、ぎゅうっと抱きしめて頬をスリスリとする。
彼女がご飯を作ってくれている間にお風呂に入った俺は、プレゼントを隠しながらリビングへと向かう。
彼女が、まだキッチンに居ることを確認して、例のぬいぐるみの所にプレゼントを置いた。
「お待たせ。ご飯出来たよ。」
「おお。今日も美味しそう。」
彼女と一緒に晩ご飯を食べて、今日は特別にワインも開けた。
安いやつだけど、あんまりワインが得意じゃない俺達でも飲みやすい。
「今日はね、お姉さんにプレゼントがあるんだ。」
「え?何でプレゼント?」
「一応サプライズ。隠してあるんだけど、どこにあるか分かる?」
「ん〜···ヒントは?」
「割と近くだよ。」
その言葉に、テーブルの周囲を見渡す彼女。
近くの棚に飾ってあったぬいぐるみに目が行ったのは、割とすぐだった。
「あ!もしかしてあれ?」
「ピンポーン!正解。」
立ち上がって、彼女をそこまで誘導する。
「はい。これ開けてみて。」
「いいの?」
「もちろん。」
嬉しそうに包みを開けていた彼女の顔が、中身を見て固まる。
「これ…指輪…?」
「うん。」
ケースから指輪を取り出して、彼女の左手の薬指にそれを付けた。
「ね、お姉さん。俺と結婚しよ。」
「…本気?」
「当たり前でしょ。このぬいぐるみと同じ衣装、2人で着よう?」
彼女の左手の薬指にある指輪を撫でながら彼女を見つめると、ジワジワと溜まる涙。
「俺と結婚するの、嫌?」
「…嫌なわけない。嬉しいに決まってるよ。」
「良かった。じゃあ、俺の奥さんになってくれる?」
「もちろん、喜んで…!」
耐えきれずに流れ落ちる涙もそのままに、抱き着いて来る彼女を受け止める。
「絶対2人で幸せになろう。」
「うん!」
俺達は、しばらくリビングで抱き合いながら、口付けを交わしていた。
それから数か月後。
俺達の晴れの舞台である結婚式がやってきた。
先に入場した俺の目に、参列してくれている主任と大学時代の友人の顔が映る。
結婚の報告をした時の主任は、少し呆れたような顔をしながらも祝福してくれた。
「まあ、お前なら大丈夫だろ。おめでとう。」
大学時代の友人は、さっぱりしたもんだった。
「そうなると思ってた。ま、おめでと。」
そんな二人の前を通り過ぎて、俺は彼女が来るのを待つ。
司会者のアナウンスと共に、お義父さんと入場してきた彼女は、本当に綺麗だ。
あのぬいぐるみと同じ衣装。
それは、本当に彼女によく似合っている。
ゆっくりと近づいて来た彼女を、お義父さんから譲り受ける。
目だけで交わした言葉に、俺は小さく頷いた。
結婚の挨拶に行った時に、お義父さんと交わした約束。
彼女を絶対に悲しませないこと。
お義父さんの目は、約束を破ることは許さない、と伝えてきていた。
祭壇の前に彼女と2人で立つ。
「病める時も健やかなるときも…」
牧師の言葉に2人で宣誓し、指輪を交換する。
誓いのキスは、短めに、と言われていたのに、思わず長くなってしまった。
「ごめん」
彼女にだけ聞こえる声で言うと、真っ赤な顔で無言の抗議をされた。
そんな顔されると、またしたくなるんだけど。
無事に何事もなく終わり、退場した俺達を、フラワーシャワーが出迎えた。
「おめでとう!!」
口々に伝えられる祝福の言葉。
皆の笑顔と、隣にいる彼女の幸せそうな顔を見て、言いようのない程の幸せな気持ちで心が満たされる。
出会いはナンパだったけど、本気で彼女の事を愛してる。
好きで好きで仕方が無い彼女と、一生一緒にいる権利を得られた俺は、間違いなく世界で一番幸せな男になった。
ーーーEND---
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