うんちしたい

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うんちしたい

 うんちしたい。  しかし、それはできない。  なぜなら、今は授業中だからだ。    少しでも気を抜けば取り返しのつかないことになる。    そのぐらい事態は切迫していた。    焦点が歪んで教科書の文字がゆらゆらと踊る。    お腹の中ではうんちがうごめく。    ・・・・・・オナラが出そう。    オナラを出せば少しは楽になるかもしれない。    だが、オナラを出した弾みでうんちまで出てきてしまう危険性も否めない。    苦しい。    だめだ。オナラをがまんしていたら結局お腹が耐えられずに決壊する。    とりあえずオナラを出すしかない。    絶妙な力加減でオナラだけを少しずつ、少しずつ、静かに排出する。    加減を間違えば、うんちまでとは言わずとも盛大な放屁の音色を奏でることになるだろう。    周囲が騒ぎはじめた。    何か臭い。何か臭くね。誰かオナラしたっしょ。    臭いの来る方向をクラスメイト達が見やる。    やばい。臭いが思っていた以上にキツかった。    もしかしてお前か?という視線が四方から俺に突き刺さる。    脇から嫌な汗がツーっと滴る。    緊張でパニックに陥った俺の体はいよいよ制御を失い、自然の摂理に蹂躙されようとしていた。    来る。大いなるモノの奔流が。    その時、俺の前の席に座っていた男子生徒が不意に立ち上がった。 「先生、ちょっとお腹痛いんで保健室行ってきてもいいですか」    クスクスという声がクラスに広がる。 「大丈夫か。いいぞ。行ってこい」    教室のドアへ歩み出した男子生徒が突然膝から崩れ落ちる。 「・・・・・・やばい。マジ痛い」 「おい、保健委員、一緒に付いていってやってくれ」    保健委員・・・・・・俺だ。 「は、はい。付いていきます」    俺はうずくまった男子生徒と共に教室を出た。    男子生徒は教室から出ると急にケロッとした顔をして言う。 「ほら、行ってこいよ。うんち出そうなんだろ」 「お、お前・・・・・・俺のために、そんな。オナラしたのは俺なのに・・・・・・」 「大丈夫だって。お調子者キャラで通ってる俺だったらむしろ美味しいくらいだから。平気、平気。逆にお前は結構マジメなキャラだからな。なんて言うか‥‥適してないんだよな」    混乱する頭の中で、とにかく俺はもうトイレに行っても大丈夫だということがわかり、男子生徒に頭を下げて一目散にトイレへと駆けた。    あの男子生徒はチャラくてうるさくてバカなやつだと思って完全に見下していた。    俺の嫌いな人種だ。関わりたくない。そんな風にばかり思っていた。    あいつはいいやつなんだと思った。    一方で俺は醜いやつだったなと思った。    俺を苦しめていたモノは流れ去り、後にはスッキリとした世界が残った。  
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