アギュララの雫

3/11
80人が本棚に入れています
本棚に追加
/11ページ
「かわいそうにね。まだ、4才でしょ?」 「かわいい盛りだったでしょうに………」 黒い服に身を包んだ参列者たちが、式場に入る前に、口々に感傷の言葉を口にした。 今日の式場は、中も外も、マスコミを含め、大勢の参列者でごった返した現場だった。 こんな大人数が参加する式は、俺にとっても初めてのことで、現場を仕切るので、珍しく必死になっていた。 「こちらからお入りください」 「マスコミの方はあちらへ………」 担当者たちが、各々の席に誘導しながら、式の準備を進めていく。 今回の式の主役は、4才になったばかりの小さな女の子だった。 父親と一緒に信号待ちをしていたとき、運転操作を過った車に跳ねられ、突然、幼い命がこの世から奪い去られた。 それは、高齢ドライバーによる痛ましい事故だった。 最近、この手の話が話題になることも多く、今回の少女の事故は、マスコミにも取り上げられ、式場にまで取材にくる事態となっていた。 慣れない対応に追われながら、なんとか各自持ち場に着くと、司会の挨拶と共に、ざわついていた場内は静かになり、(おごそ)かに式は始まった。 深く滑らかな読経と、ポクポクと鳴る木魚の音が響く中、まだ小さな命の落命(らくめい)を痛み、誰かが鼻を啜るのを合図に、次々と悲しみの涙が連鎖した。 いつの間にか、マスコミを含め、誰もが涙し、会場が悲しみに包まれていった。 会場にいる全ての人が(むせ)び泣く中、式も滞りなく終わり、後は出棺を待つのみとなった。
/11ページ

最初のコメントを投稿しよう!