アギュララの雫

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涙を流さない、その『要注意人物』に、誰もが危機感を募らせた。 その時 『チッ!』 チーフマネージャーの舌打ちと共に、苛立ったような声が響いた。 『出棺まで、あと何分だ!』 『5分です』 『今すぐ、娘と二人だけにしろ!』 『5分ですよ!無理です!』 別のスタッフの慌てた声がする。 出棺は、1分たりとも遅らせることはできない。 一気に緊張が走った。 『いいから、やれ!!』 この場では、チーフマネージャーの指示は絶対だ。 出棺を遅らせることはできない。 でも、指示が出た以上、早く『二人』にしなくてはならない。 「会場の皆様!大変申し訳ございませんが、今すぐ速やかに会場から出てください!急いでください!」 祭壇の近くにいた俺の、突然の大きな声に、驚いたように参列者が振り返る。 驚いてこちらを見ている時間も惜しい。 今すぐに、出て行ってもらわないとならない。 バラバラに散っていたスタッフが、急いで会場に集まり、場外に参列者と母親以外の遺族を次々と誘導していく。 今まで見たことがないくらい、みんな俊敏だった。 俺は、驚いて呆気にとられている母親の元に、つかつかと歩み寄った。 「娘さんとお別れしてください」 「えっ?………何をおっしゃってるんですか?」 「時間がありません。私どもが準備できるのは、数分間だけです。早く娘さんのところへ」 事態が飲み込めないと言う顔の、母親の背中を軽く押しながら、祭壇の前まで誘導した。 『急げ!』 インカムから、チーフマネージャーの声が響いた。
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