アギュララの雫

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式場には、もう俺たち以外いなかった。 そのまま踵を返して、母親をその場に残したまま、足早に会場の外に出ると、重い扉をバタンと閉めた。 その瞬間…………… 「いやあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」 今まで聞いたこともないくらいの大きな叫び声が、中から響いた。 会場の外…………それは屋外にまで、その声は響き渡った。 全ての人がその悲嘆(ひたん)の叫びに驚き、息を飲むように黙り込み、母親の悲鳴以外は、小さな物音すらしなくなった。 「ぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁ!!ごめん!ごめんねー!!痛かったでしょ!?辛かったでょ!?守ってあげられなくてごめん!代わってあげられなくてごめん!!ママを許してーーーー! わあぁぁぁぁぁぁぁぁぁーーー!! いやーーーーー!」 心が締め付けるような悲痛な叫び声は、全く鳴り止まなかった。 俺自身、扉に背を向けたままぐっと目を閉じて、その声を、ただひたすら聞くしかなかった。 そこにいた誰もがまた、涙を流し、微動だにできなかった。 その時、2分以上鳴り止まなかった悲鳴が、突然ピタリと止まった。 ………大丈夫か? 誰もが顔を見合わせながら固唾を飲んだ。 『………時間だ』 チーフマネージャーの重い声が、耳に響いた。 扉を開けると、棺を抱え込むようにもたれ掛かり、ぐったりとした母親の姿が視界に入った。 静かに歩み寄り 「お母さん…………行きましょう……」 肩に優しく触れた。 いく筋もの涙が頬を伝い、先程までとは打って変わって、魂が抜けたような表情の母親を抱き起こし、ゆっくりと立ち上がった。 その前を、スタッフに抱えられた、小さな少女の棺が通り過ぎていった。
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