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「お久しぶりです。その節は、大変お世話になりました。四十九日の法要も無事終わりましたので、ご報告をと思いまして………」
そう言った母親の顔は、俺たちが心配していたよりも、遥かに明るかった。
応接室に通し、お茶を準備した。
「お元気そうで良かったです。少し心配していたんですよ」
俺がソファーに座ると、母親はにっこりと微笑んだ。
「お陰さまで…………あの時は、お見苦しいものをお見せしてしまって、申し訳ありませんでした」
「いえ、とんでもないです。私どもこそ、出すぎた真似をしてしまって、申し訳ございませんでした」
「私………本当に感謝しているんです」
「感謝ですか?」
「ええ………」
そう言って母親はお茶を啜ると
「あの時、私が何を考えていたかわかりますか?」
また、にっこりと微笑んだ。
「何を…ですか?………すみません、ちょっとわかりかねます」
さすがに、『泣いていない』状況は危険なことはわかっていたけど、何を考えているかまではわからない。
フフッと母親は可笑しそうに笑うと
「あの時私、どうやって復讐しようか………そればかり考えてたんですよ」
セミの鳴き声が響く窓の外に視線を移し、また静かにお茶を啜った。
「復讐ですか?」
ちょっと物騒な言葉に、自然と声をひそめてしまった。
「そうです。…………どうやって同じような苦しみを与えたらいいんだろう。
運転していた本人も………それを止めなかった周りの家族も…………
そして、復讐したら…………私も死のうって……」
「えっ?」
思わず前のめりになってしまった。
「大丈夫です。今はしっかり現実を受け止めています。
それが、無謀な考えだということも、よくわかってます。
…………でも、あの時は、全くあの子が死んだことを、受け入れることができてなかったんです。
あの子の死を悲しむより、ただ怒りと後を追うことしか考えられなかった………」
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