15人が本棚に入れています
本棚に追加
そんな思いをどこにしまっておいたのかというほど、話はいくらでもできた。
「がんばったね」と皆に言われれば嬉しくて泣いた。「幼馴染には勝てないだろ」と言った前田さんには、おしぼりを投げつけてやった。
お開きになり、店を出たときには言うだけ言って晴れ晴れした気分になっていた。夜風が気持ちよかった。
「そういえば、店長て来なかったですね」と横澤さんに尋ねると意外な顔をされた。
「ん? 来ないよ?」
「あれ? 私はてっきり来るのもかと」
「どうして?」
「だって前田さんが、今日の飲み会は店長の命令だから、って……」
「そんなこと言って誘ったの? 子どもみたいね」と横澤さんは笑い出した。
次の日の朝起きると、とてつもない羞恥心に襲われた。
大して飲んだわけではなかったので記憶ははっきりしていた。酔ったからといって全てぶちまけてしまったことを後悔した。
恐る恐るお店に行ったが、皆何食わぬ顔で「お疲れ様でーす。昨日はありがとうございました」と言っていて、拍子抜けした。
ただ、横澤さんに「前田君に謝っておいてね」とは釘を刺されたが。
顔に当たってたもんな……。
気まずいながらもきちんとしておこう、と思っていると、お手洗いの前でばったり出くわした。
「あのっ、……昨日はすみませんでした……」と言うと、立ち止まってこちらを見た。
「……別に気にしてないから」
そう言った前田さんは、いつもの前田さんだった。
そのまま無言でジッと見つめられる。
「……なんでしょうか」
「マシな顔になったな」
ぶっきらぼうに言い放つとパッと後ろを向いて行ってしまった。
「……」
人を見る目は相変わらずだったが、その眼差しが以前より柔らかくなったような気がして、私は少し親近感を持ったのだった。
……帰ったらネックレスは捨てよう。
もうミスはしなかった。
最初のコメントを投稿しよう!