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・摩周湖へ
車は、私とハジメさんを乗せ、391号線を猛スピードで突っ走っていた。
普通に旅行として来ていたのなら、じっくりと見学したいと思える釧路湿原も、今の私には殆ど目に入らず、外の景色を窓からただ見つめながら、高鳴る鼓動を抑える事に必死で努めた。
──この道の先に、立花センパイがいるんだ。
そう思うと、私は正気でいる事が出来ない。
会ったら、まず何を話そう。
どうして、突然いなくなったの?
今まで、北海道のドコらへんにいたの?
ってか、訊きたい事が山ほどあって、何から切り出せばいいのか私は心底迷いまくっていた。
「月山とアキラに、謝らなきゃいけないな……」
その時、私の思考を打ち破る形で、ポツリとハジメさんが呟く。
「えっ?」
「晩メシ。
釧路で、久しぶりに皆で炉端食おうって言ってたからさ」
「……あっ、ごめんなさい」
「いやいや、気にしないでよ」
取り繕うようにハジメさんは言い、にこやかな口調で続ける。
「そんな事で文句とか言うようなら、最初からめぐみちゃんに協力してないしね。
まっ、摩周湖の旅館で何かうまいモンでも食べんのに、頭を切り替えるわ。
確か、いとこの兄ちゃんが働いている旅館が、摩周湖の近くにあったんだ」
「そうなんですね」
「多分、夕方には摩周湖に着くよ。
夕映えに彩られた摩周湖も、なかなか乙なモノだよ。
何かさ、まるで鏡みたいに、摩周湖がオレンジに染められた空と摩周岳を写し出してるんだからさ」
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