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釧路を出て、一時間くらい経った頃だろうか?
車内はいつの間にやら、何とも形容しがたい沈黙に覆われていた。
私は私で、高揚している気持ちを抑えながら立花センパイからのLINEを押し黙って待っていたのだが、ハジメさんもどういう訳か同じく黙り込んでしまった。
釧路を出る頃には、いつものにこやかな口調で私の緊張をほぐしてくれていたのにも関わらずだ。
数分前にハジメさんのスマートフォンに送られてきたLINEに、何か不都合な事が書かれていたのだろうか。
それを見た途端、ハジメさんの顔から笑顔が消えてしまい、そのまま一言も言葉を発さなくなってしまったからだ。
「ねぇ、めぐみちゃん」
しかし、ハジメさんは車内に漂う重苦しい沈黙を打ち破るように、ゆっくりと口を開く。
「はい」
「摩周湖でリュウヤ君。見つかるといいね」
「ホント、それ願ってます」
沈黙。
思った以上に私とハジメさんの会話は進展せず、車内は再び沈黙に包まれた。
沈黙のせいもあるのか、一分が一秒が、時間の流れるスピードが、この上なく遅く感じた。
何で、そう感じるんだろう?
あれ程、逢いたくて逢いたくて、仕方がなかった立花センパイ。
そのセンパイにやっと逢えるという想いが、私の中の時間の感覚を緩やかにさせているのだろうか?
けど、一歩一歩確実に、徐々にだけど私は立花センパイへと近づいている、という実感もまた抱いた。
やがて、どれ程の時間が経ったのか。
ジュースをこぼしたと思える程のオレンジ色が空を鮮やかに染め上げた頃、目の前に湾を思い起こさせる大きな水溜まりが見えてきた。
──アレが摩周湖、なのかな?
私が思ったその時、ハジメさんが再び沈黙を打ち破り、おもむろに口を開いた。
「めぐみちゃん」
「はい」
「今、見えている湖。アレが摩周湖だよ」
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