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僅かな望みに賭けて向かった第三展望台にも、立花センパイはいなかった。
この時間になると、空はすっかりと薄暗い夜の闇に覆われており、地元ではまず見る事の出来ない幾多もの星が月と共に、私達二人をまばゆいばかりに照らしていた。
「キレイですね……、星」
私は独りごちる。
立花センパイに会えなかった失望感を、私は何か言葉を吐く事で紛らわせたかったのかもしれない。
「めぐみちゃんの地元じゃ見れないんじゃないの、こんな星空。
まっ、俺も札幌暮らしが長いから、こういう星空は久々だけどね。
つーか、こんな自然の星空を見てると、なんか心が洗われる、って気がするよ。
自分が今までやってきた色んな事を、洗い物の済んだシンクみたく、全て洗い流してくれるっていうかさ」
「はい」
「そろそろ、旅館の方に電話しておくよ。
宿、確保しておかないとね。
また、車の中で一眠りするのは、さすがにキツいし」
ハジメさんは筋を伸ばし、体からポキポキと乾いた音を出させる。
「とりあえず、本格的な聞き込みは明日にしようよ。
明日になれば、第一のレストハウスも開いている。
そこを中心に聞き込みをしていって、裏摩周にも足を運べばきっと何か得られると思うよ。
摩周湖に何があるか俺は知らないけど、ガイドブックにわざわざドッグイヤーをつけるくらいだから、何かあるんだろね」
「分かりました……」
ため息を吐き、弱々しく私が頷いたその時であった。
タイヤが地面を噛む音が、私達の耳に聞こえてきたのだ。
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