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音のした駐車場に私とハジメさんはすぐさま目をやり、歩いていった。
何者かが、この展望台の駐車場に侵入してきたのは明白だったからだ。
バイクが止まっていた。
膨らんだガソリンタンク、黒っぽい車体。
「……ホーネット」
バイクを見たハジメさんが、呆然とした顔で呟く。
こちらに、ゆっくりながらも向かってくる人影。
その人影に、私は大きく目を見開いた。
夢かと思った。
けど、夢じゃなかった。
今、私の目の前で起こっている出来事は、まぎれもなく現実であった。
筋肉質で決して痩せている訳ではない、引き締まったカラダ。
胸元がざっくりと開いたはだけたシャツ、見慣れた長髪。
私は、ほぼ無意識の内にその人影に向かって駆け足で走り寄っていた。
目尻から溢れだした涙が次々と頬をつたいこぼれ落ちていき、止まらない。
──なんで、アタシを置いて北海道まで行ったの?
いったい、今まで何してたの?
訊きたい事は、山ほどあった。
けど、それは言葉にならず、ただ嗚咽となって私の口から洩れていった。
身体を預けるように目の前の人影に飛びつくと、私はその人影を力一杯抱きしめた。
もう、離さない。
ってか、離したくなかった。
離れて僅か数日だというのに、何年も触れていなかったとも思える胸元に顔をうずめると、私は声を震わせながら言った。
「……リュウヤ」と。
リュウヤから、言葉は返ってこなかった。
その代わりとしてなのか、ただ私の頭をホコリを払うかのように右手で優しく撫で続けてくれていた。
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