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・生きるんだよ
思わぬ闖入者の登場に、リュウヤは訝しげな視線をハジメさんに対して向けた。
「第一と第三の展望台にめぐみちゃんがいなかったら、最初の予定通りに身投げするつもりだったんだろ?
リュウヤ君」
「……いや、アンタ誰だよ?」
「コレはコレは、申し遅れました」
洒落た感じでハジメさんは頭を下げると、いつもの軽快な口調で続けた。
「俺、ハジメ。
札幌でホストやってた、ケチな野郎だよ。
で、さっきの続きだけど、めぐみちゃんが展望台に来るか来ないかに自分の命を賭けてみたんだろ、リュウヤ君?
来てもらうヒントとして、めぐみちゃんに摩周湖の画像をLINEで送ったりしてさ」
「……ちが」
「何が、違うっていうんだい?」
嘲弄するようにハジメさんは言うと、ポケットに手を突っ込み、私を抱きしめたままでいるリュウヤに向かって歩を進めていく。
「大体、死にたければ、誰にも迷惑かけず、一人でひっそりと死ねば済む話だろが。
つーかよ、君。
ホントは、めぐみちゃんに死ぬのを止めてほしかったんじゃないの?
やらしいんだよ、その考え。
それとなく、自分が今いる場所をちょこちょこLINEで送ってきたりしてさ」
返す言葉がないのか、リュウヤは黙り込んだまま、静かにうなだれた。
「大体、『死ぬ』なんて軽々しく口にするんじゃねえよ。
人生に疲れた?
笑わせんじゃねえよ、ガキが。
君、一体、何年生きてきたんだよ。
20年も生きてないんだろ?
戦い続けて定年迎えたサラリーマンとかならともかく、まだ人生の折り返し地点すら迎えていないってのに、簡単に『死ぬ』なんてぬかすなや。
君が何を抱え込んでんのか知らねえけど、君の人生はまだこれからだろが」
「何にも知らないクセに、俺にモノ言うなよ!」
言われっぱなしの状況にさすがに耐えきれなくなったのか、リュウヤは吠えた。
「あぁ、知らないよ」
しかし、リュウヤとは対照的にハジメさんは涼しい顔つきで返答する。
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