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「水無月さん、、、」
「何だ」
「今から天井の電球を替えます」
「、、、 替えろよ」
キセは急ににんまり笑い、俺の手を外すと
嬉しそうに側の脚立に足をかける。
、、、ったく、
こいつの頭ん中の回路は一体どうなってんだ。
「脚立というのは思いの外、危険なのです」
冷蔵庫から水のボトルを取った俺が振り返るのを待ち、脚立を揺らし上りながら ふにふにと笑う。
『替える』と言った割には電球も持たず、脚立の頂点を跨ぐ様をカウンター越しに眺め、これから始まる何かを見届けてやるかと水を飲んだ。
「もしもここから落ちたら、一体誰が僕を助けてくれるのでしょう?」
見れば、
子供が遊具で遊ぶように身体を揺らしているが、開き止め金具をロックしていない脚立はその揺れに合わせ、脚幅を狭めていく。
俺はキッチンを出、
近づくにつれ 声なく嬉しそうに笑うキセを視界の隅に入れながら脚立に向かった。
「水無月さん、これ以上傾いたらですね、
重力の作用線が脚立の片側に着する二点の接面を離れ、、、僕は、、、僕はっ」
一人遊ぶキセは放っとくとしても、
倒れれば面倒な脚立を片手で支え、電球の入った箱も足で退けた。
ほぼ同時に、
キセは下にいる俺に向かって両手を差し出し、
「落ちますよっ」
と、言って落ちた。
身体の横すれすれをかすめ、床に落ちてからの様を水を飲みながら見下ろしていると、キセは頭を少し持ち上げ、今度は恨めし気に俺を見上げる。
「水無月さん」
「なんだ」
「ここは僕を助けてくれないと話が進まないのです」
ひっくり返ったキセガエルをせせら嗤い、脚立の開き止めをロックした俺は身体に合わないシャツを脱いで顔の上に放ってやった。
「わざと落ちた奴が何を。
電球替えたらスマホの設定戻しておけ。、、、必ずしろよ」
キセが腰をさする姿に自然と笑みが溢れる。
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