都橋探偵事情『暗渠』

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「先輩か、いいでしょう、ずっとそれで通してください。先輩と発声する君の声で動物的に反応したいからです。所で君の名前はまだ聞いていないが」 「中井正弘です、二十六になりました」 「この商売偽名がいい、それは所長の指示ですがそれは僕も経験して納得した。君もこの事務所では偽名にしましょう。何か絶対に忘れない名前とかある?」  中井は考えた。吉田保、兄貴の名前を使おうか、でもなんか響きが悪いし探偵らしくない。 「なんかカッコいい名前がいいすね、探偵らしい、浮かびませんか先輩」  林も考えた。日本人離れした体形で爽やかでどちらかというと可愛いい感じのマスク。言葉遣いもそれなりに敬語が使え威圧感を与えない。 「ご家族からはなんて呼ばれているの?」 「もう家族は姉だけで、結婚したんで義理の兄貴がいますけど子供の頃からマーです。あっ浮かびました。吉田マーロウでどうでしょうか?吉田は死んだ兄貴から、正弘でマーの呼び名からマーロウ。これぞ探偵って感じじゃないすか」  林は笑った。フィリップ マーロウと絡めている。彼も小説から探偵に憧れたに違いない。 「君、ムショで随分と読んだようだね」 「ええ、探偵もんは片っ端から読みました」 「でも名刺を作らなければならない、当て字を考えよう。マーロウ、魔郎、悪魔の男」 「いや、さすが、それでお願いします」 「最初は恥ずかしいけど慣れると思う、僕等は君をマーロウと呼ぶよ」  林は恥ずかしい、まして所長がマーロウと発声するだろうか。本人はもうその気になっている。仕方ないこのまま名刺を作ろう。作ってしまえば所長も諦める。
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