都橋探偵事情『暗渠』

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「よしこれで探偵名は決まった。次はこの事務所のルールです。一番大事なのは出入りに大きな約束事がある。君が事務所を出るとき、もちろん他に誰もいない時だが、必ず名刺をドア上部に挟み込む。やり方は後で説明する。入るときに名刺が廊下に落ちていればそのまま素通りすること。何故かというと侵入者かもしれない。逆恨みされることもたまにある、僕が君に狙われたように」  二人は笑った。中井は確かに殺すつもりでいた。殺して刑務所に入って箔付けて出てくれば事務所を持たせてもらえると真剣に考えていたがそんな都合よくいかないと刑務所で反省した。 「はい、ようく分かります」 「名刺が落ちていれば所長でも僕でもいいから連絡を取って前の公園とかで待機する。所長が中にいるときは所長デスクの右側カーテンが少しだけ開いている。僕がいるときはその傘立てが今のように中に入れておく。カーテンも傘立ても大事な約束事だからしっかり覚えておいてくれ。君がいるときはどうしよう」 「僕花が好きなんで傘立ての上に鉢を置いていてもいいですか?」 「毎日のことだから出来るかな、意外と面倒臭いよ。私も傘立ての出し入れを怠ったことがあってね、その時は普段温厚な所長に叱られた。君の命だけじゃなくて仲間の命まで危険にさらしたなって」  中井は頷いた。 「所長はこの名刺の挟み込みで数度命を救われた。特に八年前にここで死んだ殺し屋は所長を狙っていて、落ちた名詞に気付いて素通りして助かった経緯がある」 「花というか植物は好きでずっと育てていました。しっかりと守ります」  林は了承した。
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