都橋探偵事情『暗渠』

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「とりあえずこの事務所の出入りと呼称についての約束事はそれだけです。それだけだけどしっかり守ってください。それとこれは後で所長に指摘されるから先に言っとくよ。探偵は地味な職業であまり目立たない方が何かと都合がいい」  中井は服装のことを言われているとピンときた。 「これから元町行ってコーディネートして来ます。今日間に合えば明日から替えて来るんですが間に合わなければ数日かかるかもしれません」 「いいよ、急ぐ必要はない。ところで宿泊はどうする?」 「近くに借ります。ここが危ないのはよく知っています。買い物ついでに不動産屋に行ってみます」  林は公園の人気を気にしながら名刺の挟み方を教えた。 「僕はこれから君の名刺を注文して依頼の浮気を暴いてくる。明日から手伝ってもらえると助かる」 「ばっちりです。宜しくお願いします」  林は事務所の鍵を渡した。一礼して中井は元町に向かった。  徳田は保土ヶ谷駅近くの古い蕎麦屋にいた。一緒に蕎麦を啜っているのは地元の古いやくざである。やくざと言っても今風の暴力団ではない。テキヤの元締めである。依頼は二十歳になった娘が宗教団体に入って帰って来ない、たまに封書で金を要求してくる。 「いつから?」 「もう三か月になるな。オウムじゃねえだろうが宗教団体と聞くとぞっとするぜ、まさかそんな活動はしていねえだろうとは思うが」  古希を過ぎたテキヤの元締め小杉次郎は挟まったネギのカスを楊枝で探っている。うまく楊枝に絡まったようで「しっー」細く息を吸い込んで確認した。
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