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アパートのチャイムが短く鳴り、ドアを開けると恋人の里佳子がスーパーの袋を携えて立っていた。
「ご飯作りに来たわよー」
「ん」
勝手知ったる我が家と言うようにブラウンのヒールを脱ぎ散らかし、部屋にどんどん入って行った。直樹はヒールを揃えて里佳子の後ろを歩く。
今日は和食らしい。週末にいつも手料理を振舞ってくれる里佳子は直樹の栄養面を考慮してくれており塩分、カロリーともに控えめで健康的だった。
北欧デザインの大きな花柄の派手なエプロンはそっけない直樹の部屋を明るくする。
「何か手伝おうか?」
「いいのよ。テレビでも見ていて」
彼女は一人で効率よくやるのが好きなようで直樹の手伝いをいつも拒んだ。直樹は手持無沙汰でローソファーに横たわりテレビをつけ適当なチャンネルの適当な番組を見て待った。
「お待たせー」
明るい声がかかり直樹は起き上がった。
二人掛けのテーブルに着くと次々に里佳子は料理を並べた。グリーンサラダ、肉じゃが、から揚げ、味噌汁。狭いテーブルは料理でいっぱいになった。
「最低でも一汁三菜じゃないとね」
てきぱきと並べご飯を装った。
「いただきます」
直樹は手を合わせて食べ始める。
「どう?」
「美味しいよ」
「よかった」
にっこりする里佳子に、もう少し甘さを抑えて欲しいと言いたかった直樹だが、普通こういうものなんだろうなと思い黙っていた。
里佳子以外にも何人か女と付き合ったことがあるが、彼女ほど家庭的でなおかつ現実的にしっかりしている女はいなかった。一歳年下なのにもう尻に敷かれそうだ。
おそらくこのままいけば里佳子と結婚することになるだろう。そろそろ付き合って三年になる。舌に甘味の残る肉じゃがを噛み砕きながら将来を予想していた。
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