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里佳子が入浴している間、いつもの習慣で直樹は食器を洗った。食器棚にはいつの間にか花柄の洋食器が増えている。
派手な花柄に落ちていく冷たい水が心地よく、ここ数年、泳いでいないことを思い出していた。
風呂場に向かう前の里佳子に「直樹はいい旦那さんになると思う」とにっこりして言われたが、『いい』とは何だろう。この場合、家事を手伝うことだろうか。
洗い終えてテーブルに着き、冷蔵庫からジンを取り出してグラスにつぎ、一口飲んだ。冷たさと焼ける喉のギャップに直樹は、はぁと息を吐き出してからデスクトップのパソコンに向かい電源を入れた。
里佳子は長湯ではないが出た後、セミロングの髪を乾かすことや肌の手入れに時間をかけるのでゆうに四十分は遊べるだろう。
最近始めたネットゲームに接続してみる。鉛色の毎日に少し活気を感じさせるこのネットゲームにはまっていて近頃、睡眠不足だ。
不思議なもので現実の人間関係よりもネット上での付き合いのほうが心が通い合っている気がする。チャットの会話は携帯電話のメールと同じ文字の羅列なのに話し声が聞こえてくるくらいのリアリティを感じる。
仲良くなったネット上の知り合いとゲームのことで盛り上がり始めたころ、後ろから里佳子がやってくる気配を感じた。チャットで「じゃあ、落ちるよ」と打ち、ゲームをやめてパソコンの電源を落とした。
化粧を落としあどけない顔つきになった里佳子はパソコンデスクの横のベッドに腰かけて「なあに?ゲームなんかしてるの?」 と、聞いてきた。
直樹はなんとなく気まずさを感じながら「うん。ちょっとした気分転換だよ」 と、答えた。
「直樹って眼鏡似合うね。あっさりしてるからかな、顔。塩顔てやつ?なんかしまるよ」
「そう? 視力はいいけど目が疲れるからさ。パソコン用」
眼鏡をはずして机に置き、ジンの入ったグラスを持ち上げて「飲む?」
と聞くと「ううん。もうちょっとしたら帰るから」 と、そっけなく言う。
入浴しこれから抱き合うのがだいたいのパターンだ。その後、里佳子は自宅に帰る。
実家住まいなので気軽に外泊ができないのはわかるが、情事のあとさっさと帰る彼女にいつも直樹は感心していたが寂しさも感じた。
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