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直樹は隣に座って彼女の呻くような鳴き声を聞きながらじっとしていた。もう求められても何もしてやれることはないのだろう。ただそばにいて彼女の気が済むのを待った。
一時間ほどすると里佳子はがばっと布団をはいで顔を出した。
「暑い」
いつも綺麗に整えられている艶やかな髪がぐしゃっと乱れ、瞼は腫れぼったくなっている。
直樹は冷蔵庫から冷えたペットボトルの水を取り出し彼女に渡した。黙って里佳子は受け取り、目を冷やした。少し落ち着いたのか話し始めた。
「直樹ってずっと変わらない人だと思ってた。付き合ってても結婚しても子供ができても」
直樹の考え込むそぶりを見ながら続けて
「でも変えることがあるんだね」
と、諦めたように言う。
直樹自身が変わったわけでないが里佳子が描く未来は直樹の求める未来と違ってしまっていた。
「里佳子はずっと変わらず綺麗だよ。たぶんこれからも」
ぷっとふき出して里佳子は笑った。
「こんな時によくそんなこと言うわよね。まったく喧嘩にもならないんだから」
「ごめん」
「まあ、その通りよ。私はいつだって綺麗でいたいんだから」
鼻声でいう里佳子の髪を直樹はブラシを持ってきて梳かしてやる。
「特に髪がきれいだ」
「ありがと。よく言われる」
つんと顔を上に向け彼女は鼻をすすり、ティッシュペーパーでかんだ。
「さすがにもう遅いから今日はこのまま泊まる。嫌かもしれないけど一緒に寝てくれないかな」
「嫌じゃないよ」
初めて二人は一緒に夜を過ごした。ただ恋人としてではなく今まで一緒に時間を共有した同志として。身体を触れ合わせることなく上を向いて少し話をした。
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