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「知らないことがまだ合ったなんてね。何でも知ってるつもりだった」  神妙に話す彼女を直樹は静かに見つめた。知らなかったのか知ろうとしなかったのか、今となってはどうにもならないことなので考えないようにした。里佳子も同じ気持ちらしく「まあ、しょうがないよね」と笑った。  食事を終え、里佳子はシャワーを軽く浴び支度をした。今日は休日なので急ぐ必要はなかったが、てきぱきと片付け、置いてあった歯ブラシや化粧品、エプロン、マイカップなどを用意してあったエコバッグに詰めている。 「もう来ないから。なにか忘れ物してたら捨てといて」 「ん」 「最後にお願いがあるんだけど」 「いいよ」 「イブは一緒にディナーしてくれないかな。もうみんなにそう言ってあるの」 「うん。フレンチでいい?」 「いいわ」  軽く荷造りをしてきちんと化粧をした彼女はもう『別れ』を感じさせることはなかった。「見送らないでいいわよ」と言い「じゃあね」と手をひらっとふる。  ハイヒールでコツコツと規則正しい音を発しながら綺麗に歩いて去っていく。力強い後ろ姿を直樹は見送って「さよなら」と言った。
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