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デート
珍しく直樹の希望で公園でデートをすることにした。里佳子は弁当を作ってくるという。
彼女の実家の近くのスーパーで待ち合わせをする。車内でぼんやりしていると窓をコツっと叩く音が聞こえた。
「おはよ」
里佳子はつばの広い帽子にいつもより少し濃い目のメイクでやってきた。
「おはよ。なんかセレブみたいだな」
「やあね。紫外線対策よお」
そういわれてみるとばっちり長い手袋で腕を覆っている。
「夏はまだだよ」
ジムニーの高さに少しもたつきながら乗り込んで里佳子は
「春が一番きついの」
と、いいバタンとドアを閉めた。
車で一時間ほど走ると町中の雑踏から遠ざかり建物がまばらになってとうとう木々だけになってきた。窓を少し開けて湿り気のあるすがすがしい空気を入れて深呼吸をする。木漏れ日が色々な角度から見え、ほぼ緑と黄色い光なのに鮮やかな色彩が広がっているように感じられた。
スピードを落とし少し風景を眺めていると里佳子は尻が痛くなってきたらしく腰をひねって少し不満を漏らした。
「そろそろこの車も買い替え時じゃない?」
「まだまだ乗れるよ」
「ふーん」
里佳子はもう少し車高の低いスポーツカーが好みのようだ。一度、兄の颯介のロードスターを借りて食事に行ったときはとても喜んでいた。
『県民の森まであと1キロメートル』
表示が見えてからすぐに目的地の駐車場が見えた。駐車場は広く収容数も相当多いが時期外れなのか車はまばらだった。
「こんなとこ初めてきた」
「昔、家族で来たことがあったんだ。ログハウスもあってさ、宿泊もできるんだ」
「へー」
賑やかな町育ちの里佳子にはあまりなじみがない場所らしい。同じ県内でも山の中で遊んで育ってきた直樹と休日はレジャー施設で過ごしてきた里佳子とではデートの好みがまるで違っていた。それでも里佳子には新鮮に映るらしく興味を持ってあたりを見回している。
「気もちいいだろ。森のなかって」
「そうね。いい匂いがするわね。空気も乾燥してなくてお肌にいい感じ」
美容を常に忘れない里佳子に直樹は笑って
「そうだよ。日本人の肌がきれいなのは湿度だと思うよ。森林大国だからね」
と、言っておいた。
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