さようなら、美香

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「心因性記憶障害の可能性があります。 精神的なストレスで記憶が失われてしまう病気です。 過去にも何回かありましたか?とはいっても、その記憶もない可能性もありますが、、」 僕は激しい頭痛のなか、思い返してみたが、ほとんど思い出せない。 というより、なにも思い出せない。怖かった。 母親らしき人が来た。 泣きながら話しかけてくれるのだが、僕はこの人を母親なのかを覚えていないので、とにかく怖かった。 そしてしばらく入院することになった。 そして僕は唯一覚えていることがあった。 好きな女の子がいて、その子を愛していたことだ。名前も思い出せない。 顔もうっすらと出てくるぐらいだ。 でもとにかく好きだったことだけは覚えている。その子に会いたい。 しかし会う手立てがなかった。 友達に頼ろうにも友達の記憶が全くないからだ。 スマートフォンの暗証番号さえわかれば、いろいろヒントになるのだが、それもわからない。 そして僕は退院し、実家に帰った。 家では引きこもり、彼女の事だけを考えていた。 僕はひとりで部屋のベッドのなかで布団に潜っていた。 部屋は散らかし放題である。 彼女は今どうしているだろうか。元気にしているのかな。 楽しそうであるなら、いいんだ。 僕みたいな思いはしてほしくない。 でも連絡が来ないということは彼女も僕を好きでいてくれないのかな? 君に会いたい。 君の笑顔で僕の心を照らしてくれないか。 毎日本当につらくて、自殺も考えた。 それでも怖くて死ねない。 そして君を置いたまま死ぬことはできない。 半年間辛い時期が続き、母がまた病院へとつれていってくれた。 母が医者からの説明を聞き、 記憶障害を克服するためのリハビリをしようと言った。 僕は彼女を思い出すためにリハビリに打ち込むことにした。 そして、リハビリを繰り返すうちに精神的にも落ち着いてきて、一瞬であるが記憶が戻りそうな瞬間が出てくるようになった。 美香、、? 名前を思い出した。そして顔も。 楽しかった日々も少しずつ思い出してきた。 ああ、あんなにかわいい子が僕の恋人だったのか。 だがひとつ疑問が残る。 なんで僕たちは別れてしまったんだ? そこの記憶がどうしても思い出せない。 美香、教えてよ。 僕はどんなところでも直すよ。 いつもの美香なら、なんでもはっきり言ってくれるでしょ? そして23歳の4月12日、すべて思い出した。 その日は明るい光で目が覚め、 今日もリハビリを頑張ろうと意気込んでいた。 ほんとにすべてを。 僕は涙が止まらなかった。 声を出してずっと泣いていた。 何を思い出したかって? 大学3年の冬、美香は死んだこと。
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