準備完了

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 戦争が終わっても、オレの仕事に大きな変化はなかった。 ――相手を照準に捉え、引き金を引き、撃つ。  ただそれだけの簡単な仕事。だが、勘違いしてはいけない。  引き金を引くという行為は最後の一手。  大事なのは、引き金を引くだけの状態にまで事を進める方が困難だ。  最後だけ見ると誰にでも出来る簡単な仕事だと思うだろう。  恥ずかしい話だが、オレもかつてはそうだった。  しかし、実際は違う。  相手を確実に仕留めるには至近距離から狙うのが早く失敗する可能性も低く、効率がいい。  その気持ちは十分に理解している。  至近距離での命のやり取りは他の言葉では例えようがない興奮を覚える。  しかし、その高揚感と代償に敗北者へ落ちる危険性が常に孕んでいる。  幸いにもオレは今も戦場へと身を置いている。  いつからだろうか。気がつくとオレは命のやりとりに興味がなくなってしまった。  ソレが成れからか飽きからか。はたまた恐怖かもしれないが、オレは新しい道を見つけた。  狙撃の利点は接近戦では得られない、楽しみ方がある。  一発必中により射撃位置を発見されにくい。  これが唯一にして最大の利点だとオレは思っている。  マシンガンのフルオートでただただ乱射するのも面白いと言えば面白いが、オレからするとその行為は愚かだ。  美しくない。  その点、狙撃は一発で確実に相手を仕留めた時の快感は、今までとは比べ物にならないほどだ。  こればっかりは他では絶対に体験できない最高の瞬間だ。  おっといけない。  オレは昂ぶる気持ちを抑えつつ、両肘を地面に立て、長年付き合った恋人や相棒とも呼べる獲物を構えた。  緩やかな風が頬を撫で、木々を僅かに揺らす。  心地いい。  今まで体験してきた過酷な環境と比べると、ここは天国だ。  木の葉に囲まれ、直接日光を浴びることはない。地面もぬかるんでおらず、程よく乾いている。  「生死を賭す瞬間にそんな粗末なことを気にするなっ!」  と、激高していた隊長の姿を思い出す。  今とはなってはそれも遠い話、笑い話になるだろう。  しかし、現実という戦場は思い出に浸る暇もなく、容赦なく冷酷な一撃で死を叩き込んでくる。  勝利が確定した時にこそ、仲間たちと共に笑い話に興じよう。  オレは肩を付けを銃を固定させ、頬を付け狙いを定めた。
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