準備完了

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 事前に入手した情報と長年の感で、ターゲットは五分後にここを通ると予測。  スコープを覗き、ターゲットが来るのを待つ。  ただただ待ち付ける。  息を殺し、気配すら殺す勢いだ。  しかし、待てども待てどもターゲットは現れない。  おかしい。  何かが起きているのか。  落ち着け、オレ。  いなくなったわけでもない。  誤差があったのも一度や二度じゃない。  もう少し待ってみよう。 「…………」  おかしい。  既に予測時間は過ぎている。  いやイヤ、待てマテ。  落ち着くんだ、オレ。  予定より遅れること何てザラにある。  うん、遅れるのは普通だ。  定刻通りにやってくる電車の方がおかしいんだ。  海外じゃあ遅れる方が普通だ。何もおかしくない。 「……フゥゥゥー」  深呼吸して高鳴る鼓動を落ちつかせた。  ターゲットがいないだけで、焦るなんてどうかしてるぜオレ。  一端、別のことを考えよう。  なぜそこまで狙撃に拘るのかと他人に聞かれたら、オレは必ずこう答えるようにしている。 「仕事を終えた時に飲む酒を超える何かを探している」  具体的にそれが何かと問われれば、オレにも分からない。  むしろ、ソレが何なのかを探すために今なお手を血に染めているといっても過言ではない。  初めて狙撃を終えた時、終始緊張していたのを覚えている。  まるで初恋をした思春期の学生のように、心臓は暴れ馬の如く昂ぶっていた。  勝利の余韻。  不安や焦燥からの解放。  他人がどう感じているかは知らないが、オレは孤独な戦いを終え、仲間がいることの他には形容しがたいありがたさを感じながら飲む一杯が至福だった。  いつからだろう、その至福を超える何かを求めるようになったのは。 「……こちらポイントA、聞こえるか。どうぞ」  過去へ入りかけていうたオレの思考は、仲間からの通信によって、現在へと引き戻された。  ターゲットに聞かれたらどうするという多少のイラつきと、無線を使ってまでの連絡とは何かあったのかと、不安がよぎる。 「こちらポイントS、聞こえる。どうぞ」 「ターゲット補足。予想が外れた。ポイントTへ向かってくれ、どうぞ」 「オーバー」  無線を切ると、オレは指定されたポイントへ移動する準備を始めた。  一分一秒を争う場面状況である。悠長なことをしている時間はない。  この一発で全てを終わりにしてみせる。
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