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「…………」
トリガーを引こうとした瞬間、オレはターゲットと目があった。
いや、そんな気がした。
何十メートルも離れた位置から、オレを見つけることなんてできるはずがない。
そんなことはないとすぐに否定するが、ふと頭の中にドイツの心理学であるニーチェの言葉が頭をよぎった。
「怪物と戦う者は自ら怪物にならぬよう用心したほうがいい。アナタが長く深淵を覗いていると、深淵もまたアナタを覗き込む」
既視感に似た感覚。あの子の目を見た時、オレは確かに感じた。
どこかで見たことがある、と。
あの目はオレと凄く似ている。
例えようのない空っぽの気持ちを抱いたまま、答えを探し求め続ける者だけが抱く想い。
戦い続けることでしか見出せない答え。
数多の戦場で生き残り勝利を収め、色々な人生を見てきたオレが抱いていたこの気持ち。
勝利者でありつづけたオレとあの子は同じ目をしている。
自分だけがそう思っていたなんて、なんと傲慢なのだろう。
あの目を見て、オレは全てを悟った。
オレは戦の頂点になどいない。
偶然、勝利者たりえたが運がよかっただけのことだ。
「戦いを制し、この手に勝利を掴む」
戦場の空気に飲まれ、先陣を切る一般兵と何の違いがあろうか。
むしろオレはやっと、ようやく同じ世界に来れたのだ。
なんて傲慢だっただろう、とずっと抱いていた疑問の答えが分かった瞬間、引き金を引く指が震え出した。
照準も定まらず、指先に力が入らない。
――相手を照準に捉え、引き金を引き、撃つ。
ただそれだけの簡単な仕事が、オレはできなくなってしまった。
落ち着こう。
一度、深呼吸をしようと、思った矢先。
カチリと聞き慣れた音に掻き消された。
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