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エレインのことを話そうと思う。エレインから教わった言葉を使って。
エレインは大領主の娘でもあり、ぼくの先生でもあり、ぼくの初恋の人でもあるんだ。
エレインと出会った夏のことはは今でも忘れられない。忘れられない思いはいつまでも心の中に居座って、時々ぼくの胸を詰まらせて苦しくさせる。
人はこういう心模様を恋というらしい。加えて人が使う格言には初恋は実らないというものがあるらしい。実際、ぼくのエレインに対する思いは実らなかった。いや、どうかなのかな。思いが通じ合えば恋は実ったというのかもしれないし、ある一定のゴールに辿りつかなかった恋は実らなかったというのかもしれない。
だから、ぼくはエレインのことを思い出すと、どちらにも思えてくる。実ったと思いたい気持ちと、そんなことはないと疑う気持ち。それは交互にやってくることもあれば、同時にやってくることもある。どちらにしてもそういった思いがぼくを苛む。真夏の嵐のように通り道を荒らすだけ荒らしたあとに、目が眩むほどの美しい夕焼けを残して去っていく。そんな気持ちにさせる。
だからエレインの話をすると泣きたくなるのか、彼女が死んでしまったから、泣きたくなるのかぼくにはまだわからない。
だから、ぼくの話が終わったら、きみの考えを聞かせてほしい。物語が終わったあと、その物語について誰かと話すみたいに。白紙になった最後のページのその先を想像するみたいに。
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