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ゲヘンナの火
わざわざ得物のカードを持ち出すまでもない。
瞑想に耽るが如く攪拌をし、展開をする必要もない。
彼、宮田和臣がやって来るのが、イルゼグリムには確実に分かった。
その日は新月か満月かのどちらか、――または両方だった。
その前後二、三日ほど、和臣はイルゼグリムが住む雑居ビルの最上階、丸まるワンフロアをぶち抜いている部屋へと居座っていく。
ちなみに今夜は朔――、新月だった。
ノックも挨拶も一切なく、和臣は鍵が掛けられていないドアを開け放つ。
しかし、部屋の主であるイルゼグリムは、
「ようこそ。カズオミ」
と実に穏やかに、彫の深い整った顔に笑みすら浮かべて彼を迎え入れるのが常だった。
今夜も又、そうだった。
それに対して、訪れる宮田はいつも絵に描いたようなしかめっ面をしていた。
イルゼグリムのように派手さ華やかさはないものの、まとまり均衡が取れている顔が台無しだった。
――彼に余裕がないのも又、いつものことだった。
宮田は日本人としては珍しくもないほとんど一重の目をさらに細めて、まるで睨むかのようにイルゼグリムを見た。
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