【Scene:0「まず、はじめに」】

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【Scene:0「まず、はじめに」】

ラスガルド大陸西部に位置する国、ジューネべルク公国。 かつて一度、国主の血統を変えたとはいえ、以後は変わらず、古代王朝時代から連綿と続く世界有数の魔術国家であり……今の時代、現存する最古の魔術師派閥「星骸(せいがい)の塔」が本拠地を置く古い国である。 魔術を生業とするこの国は近隣諸国とは異なり、魔術師たちが一部重要な領地を貴族として治めている。 ジューネべルクの首都は公都と呼ばれ、数代前の公王の時代からリアドという都市に定められており、国の丁度中央部に位置している。 気候は北方や南方の各国に比べると温暖湿潤で四季も存在し、国土は自然豊かで水源、資源、豊富な晶石を産出する鉱山もある事から中規模国家でありながら非常に豊かだった。 リアドには君主たる公王一家の住まう公城を筆頭に、前述した世界最古の魔術組織「星骸の塔」総本部や魔術師協会、主流6派の神々を祀る各種大神殿、様々な文献を数多く所蔵する西方最大級の巨大図書館「ヒルデガルド蔵書庫」や、次代を担う魔術師たちの育成を目的とした魔術の名門「ベネトロッサ魔導学院」などが軒を連ね、正に魔術国家と呼ぶにふさわしい様相を呈していた。 ベネトロッサ魔導学院。 魔術黎明期、古代王朝から独立したベネトロッサ公王が設立したとされる大陸最長の歴史ある魔導学院であり、現在もその理事はベネトロッサ家当主が務めている。 ベネトロッサ家。 元々は古代王朝時代に王に仕える一公爵に過ぎなかったが、王朝の衰退と共に離反する貴族が出る中で複数の貴族と共に独立し、ベネトロッサ公王国を樹立したーー初代公王・アルベルトの時代である。 そこから紆余曲折を経て現在のジューネベルク公王家に王位を譲り、以降は臣下として准公爵の位を賜り、今日に至るまでベネトロッサ家は魔術の大家として存続し続けてきたのである。 何度か危うい場面もあったものの、アルベルトから遺伝した霊層と基定回路、そして異界ーー即ち神々のいるであろう世界への扉を開く事の出来る能力を持っていたことが滅亡を逃れた要因の一つだと言われている。 アルベルトがどの様にしてその特異ともいえる体質を手にしたのかは文献に残ってはいない。一族の中では、ある神と契った為だとも、神の血を引くからだとも言われているが真偽の程は定かではない。 星骸の塔を築いた“創始三賢者”の1人、ワイニスもその血筋であり、今なお「偉大なる」と銘打たれる召喚術の開祖アゼルもまたべネトロッサの生まれ。 ここまで長々と説明しておいて、何が言いたいかと言うと…… 僕の一族は、思い返すだけで胃が痛くなる家系であるという事だ。 ジューネベルクの大貴族、准公爵家の次男。魔導学院の現理事長の息子にして星骸の塔創始者の末裔ーー魔術の名門ベネトロッサ家の血を引く者。 それが、この僕なのである。 公国歴398年。 これはそんな僕、ネイドルフ・アルシェン・ド・ベネトロッサが星骸の塔、執行課に配属され、特務執行係“第1階位(ノイエ・プルミエス)”の階級を得て 初めて挑んだ事件の記録である。
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