【Scene:1「初任務」】

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【Scene:1「初任務」】

「アルドミナ、ですか?」 「そうだ」 ある日の事。 僕は上司に呼び出され、星骸(せいがい)の塔にある執行課の執務室を訪れていた。 通常の部署よりも廊下の更に奥まった所にある執務室には、現在、我が執行課特務執行係を預かる正魔術師サガット・グレイシアス・ドーソン師の姿がある。 短く刈り込まれたくすんだ黒髪に猛禽類を思わせる鋭い目。右目から頬にかけて大きな火傷痕があり、刀剣で得たのであろう切り傷が残る左顔面、ローブの上からでもそれと分かる鍛えあげられた錬鉄の如き肉体は最早、魔術師というよりも一介の軍人の様ですらある。 サガット卿。僕たち特務執行係を纏める魔術師。そしてご本人もまた特務に従事する傍ら、部署に配属された“新入り”を監督する鬼教官である。 渾名は“軍曹”もしくは“鬼軍曹”。 新入りや部署のエージェントを鍛える時のその鬼気迫る怒号と迫力から、僕たちはある種の畏敬の念を持って彼をそう呼んでいる。 因みに彼のシゴキは常軌を逸している事で有名で、無意味な筋トレや、全員が気絶するまで続く地獄の格闘訓練を筆頭に、四肢拘束された状態からの脱出法や拷問の耐え方講座(軽い実地試験あり)、総重量60kg弱の資材を背負っての障害物マラソン(勿論、付与魔術師作成による身体強化系魔道具(アーティファクト)の補助有り)など、凡そ魔術師には必要のない訓練ばかりが軒を連ねており、僕も入って三週間は本気で気絶したり吐いて死ぬかと思ったーーいや、マジ殺されると思った、が正しいか。 そのシゴキに耐えられる魔術師などほぼ皆無。故に特務執行係は慢性的な人手不足であり、俗にドーソン恐怖症とも呼ばれる症状を発症する者もあるのだが、僕は何とか上手くやれていた。 そんな上司ーーいや、上官と向き合いながらも僕は冷静に口を開いた。 「アルドミナと言えば、ローザカイナスと隣接する西域最大の自由貿易都市ですね」 「知っているか」 「一応は」 アルドミナは隣国であるサヴィニア王国の商業都市で、ジューネベルクの最西端にあるローザカイナス領と隣接する地域である。 ジューネベルクは国の西側にサヴィニア王国、東をディトアニア王国、北方を各太守が収める北方四国、南方をユガジェーナ、東北域を大陸最大の国土面積を誇るヴィザイン帝国に囲まれた国家であり、その中でもディトアニアやアルドミナを有するサヴィニアとは友好的な関係を築いている。 ディトアニアにはかつて、兄であるエルフェンティスが我が国の公太子であらせられるルドルフ様と外遊した国でもあり、その縁もあってかルドルフ殿下と兄、そして先頃王位を継がれた現ディトアニア国王陛下とは非常に仲が良く、今でも非公式の場では愛称で呼び合う仲だと聞く。 対してサヴィニアは現公王であらせられるリオネル陛下の叔母君、レティシア様が嫁いだ嫁ぎ先であり、こちらの3番目の姫君もジューネベルクの公爵家に降嫁する事が決まっている。因みに、ディトアニアにも陛下の妹君が嫁がれていて三国間の結びつきは非常に強い。 今回、僕が訪れる様に言われたのはそのサヴィニア王国の都市アルドミナ。ジューネベルクにとっても隣接する国々にとっても重要な貿易拠点といえる都市である。 絹の流通で栄えたかの商業都市は西側諸国の中でも最大規模の自由貿易が許可された大都市だ。 自由貿易というのは文字通り「どの国と交易を結ぼうがアルドミナ内に於いては自由」というものであり、例えば戦時下にあって敵対している国々もアルドミナ内では交易が可能である。また同都市内に於いては関税が無いことも特徴の1つであり、他国の商品が安く買えるのも魅力だ。 加えてアルドミナには“中央信用商工会”なる組織が存在し、領主が商工会長を務めるそこに総売上の10%を納めれば同都市で開催される名品物産展や、バザール目抜き通りへの優先出店、無料配布紙への商品掲載、トラブル発生時の法的補助、被災時の一時補償金制度など非常に充実した保護を受けられる事で有名で、更にアルドミナ商工会の優良商人に指定されると商工会費が8%に下がる事から、皆挙って登録し、領主であるアルドミナ侯爵家は大きな利益を得ている。 そうそう。アルドミナ自体に目立った特産品はないものの、有名なものとして忘れてはならないのは「デパルトメント」と呼ばれる高級複合商業施設の存在であろう。 デパルトメントとは数階建ての建物でその中に多種多様な店が収められており、そこに行くだけで全てが揃うとまで言われている。 勿論品物だけでなく、女性向けのエステやネイルアート、バスサロン(お風呂)が用意され、男性向けにはバスサロン付きのジムと呼ばれる運動施設、子供向けに小劇場や屋上遊園地が設置され非常に合理的かつ便利な施設だ。 王侯貴族や裕福な者専用のその施設は当然ながら登録制であり、年会費が馬鹿高い事でも有名ーー以上、アルドミナの説明終わり。 「調書は読んだな」 サガット卿に尋ねられ、僕は頷きを返すと今回の任務について口にした。 「アルドミナの領主、ガレウス侯爵閣下のご令嬢が行方知れずとか」 「そうだ」 「……正気ですか?」 僕は苦笑混じりに上官に問う。するとサガット卿は眉を顰めた。 「正気、とは?」 「アルドミナ嬢の件です。調書に依れば父親の権威を傘に着て相当好き放題している様ではありませんか」 「……」 「確かにアルドミナはローザカイナスと隣接し、我が国にも利益を齎し、加えてガレウス卿は塔に多額の出資もして下さっているパトロンのお1人ではありますが……娘が二、三日帰らぬからと塔の、それも特務を動かす必要がありますか?」 「ネイドルフ卿」 咎める様な視線を向けられたが、僕は左右に首を振った。 アルドミナ嬢ーーミレーヌ・セシリアン・ディ・アルドミナ。 サヴィニア王国の功臣アルドミナ侯爵の1人娘で、唯一の爵位後継人である彼女は15歳。成人を迎えた立派な淑女であり、余談だが僕が14で来年の白の月に15になるから、彼女の方が1つ年上である。 僕が正式に塔の魔術師となったのは今年。従霊(じゅうれい)を召喚したのは13歳の初春だったが行きたい部署も見付からず、ただ漠然と正魔術師登録だけして父や兄の雑用を引き受けていた。 勿論スカウトは多数あったが、どこもパッとしなくて行く気にはなれなかった。 元々飽き性でデスクワークには向かない気質も災いしたのだろう。でもそれから数ヶ月。夏も終わりに差し掛かった頃、そんな僕を見兼ねてか父が執行課を勧めてきた。 最初は乗り気じゃなかったが、所属もなくフラフラして腐っているよりはマシだったのでその要請を受け入れて執行課に正式に所属願を提出し、執行課への配属を受け入れた。 そして更にひと月。 退屈なデスクワークでいい加減飽き飽きして、いっそ国外にでも出奔してやろうかと思っていた時ーーサガット卿からスカウトされたのだ。 塔の実務部隊、特務執行係に来ないかと。 1にも2にもなく頷いた。 特務執行係と言えば塔の花形で派手な実戦も行える部署だ。 最高の職場だと思った。 僕の天職に違いないと。 迷わず飛び込んでシゴキにも耐え、やっと“新入り(ニュービー)”から抜け出し、先輩たちの補佐という不名誉な立場を経験して漸く今年の階位争奪試験に挑む事が許された。 特務執行係の階位は冬に行われる争奪戦で決められ、強いものが頂点に立つ完全実力主義を敷いている。 特務執行係に来て早数ヶ月。 下積みと血反吐を吐く訓練を経験して漸く争奪戦参加を認められた僕は先週、先輩であるフレデリック・ラパーマから“第1階位”の階級を勝ち取った。 当然だ。戦闘向きの従霊を得たのにその実力を活かせないではベネトロッサの名折れ。 スカウトされて特務に来たのに、階級なしのただの実務班に所属するだなんてプライドが許さない。 僕は戦いたかった。 従霊を使って。 だって折角、中位(シリカ)という等級まで得ているんだ。どうせなら全力の従霊を使ってみたいじゃないか。 僕の従霊であるフィンドールは英雄譚(サーガ)にも謳われるほどの超攻撃型の従霊だ。 小さい頃、良く彼の出てくる伝説を姉に読んでくれとせがんだ。 高潔で清廉潔白で、そして何より西域無双を誇った伝説の騎士。白銀の鎧を身に纏い、仕える主君の為に数々の武功をあげーーそして、いつの間にか正史から姿を消した謎の騎士の物語を。 彼は実在する人物ではあったが、その逸話には戦場の単騎駆けや竜との一騎打ちなど非常識なものが多く、それ故に少年心を擽った。 でも伝説と史実は違う。 実際、ただの人間に三千の敵に囲まれた状況下での単騎駆けなど不可能だろうし、ただの騎士が1人で竜に打ち勝つとも思えない。翼竜ならば別だが、伝説に記された様な火竜との一騎打ちなど魔術師や司祭の補助でもなければ不可能だろう。 だがーーそんな従霊を得たなら使ってみたい。 そう思うのは当然の事だと思う。だから僕はこの部署に異動し、必死になって辛い訓練にも耐えてきた。 特務執行係の上位5人に数ヶ月で滑り込み、そしてその中の1位を勝ち取った。 史上最年少の“第1階位”。 それが僕だ。 なのに……そんな僕の初任務が誘拐かどうかも分からない、くだらない事件になるだなんて。ツイてない。最低だ。 そんな雑事に僕の従霊を使うだなんて冗談じゃない。 「どうせ家出でしょう。この年頃の、勘違いした貴族の娘ならば良くある事です」 実際、本当にこの年頃の貴族の娘ならば良くある事だ。 例えばサロンで知り合った男の家に転がり込んでいたり、友人と馬鹿馬鹿しい話しで盛り上がり家に連絡するのを忘れて別荘か何かで泊まり込みで話し込んでいたり……探すだけ時間の無駄だ。放っておけばいずれ戻る。 ましてやアルドミナ嬢は父親が有力貴族だと知っていて社交界や公式の場でもその権威を振りかざす事があったと聞く。 要は勘違い娘だ。 優れているのは己ではなく、己の父親なのだと知らない愚かな娘。そんな小娘を探しにわざわざ他国に非公式に潜り込むだなんて御免だ。 馬鹿馬鹿しい。 「一週間もすれば戻りますよ。貴族の娘は衣装に五月蝿い。お気に入りを15着以上、自分の別荘以外に置くとは思えないし……行くだけ無駄なのでは?」 サガット卿は更に険しい顔をしたが、僕にしてみればそんなの貴族の常識だ。 貴族の娘は通常、何も無くても日に最低2回、もしくは3回意味も無くドレスを着替える。 まあ、うちの姉たちはその辺り無頓着なので丸1日着たきり雀で過ごすのもザラなのだが、普通は午前中に部屋着のドレス。昼にはお茶会用のドレス。夜には夜会用やディナー用のドレスに着替えるのが普通で、しかもその全てが流行最先端かつ一つの皺もない事が当然とされている。 流行とは常に変動し、明日には今日の流行が時代遅れになる事もある。だから一週間以上流行をキープするのは難しい。 ましてや今は年末に向け挨拶回りで忙しい時期。流行に命懸けの貴族令嬢が閉じこもるには余りに不自然で困難な時期だ。調書から推察するに彼女の性格なら十中八九、馴染みの仕立て屋を呼びつけるはずだ。そうなればそこから足取りを辿れる。 浅はかな貴族の娘が、本気で探す家人の捜査網から逃れる術などない。 案件外です。と呆れ混じりに告げた。だがサガット卿は何か思う所があるのか僕の言葉を無視すると 「卿にはアルドミナに向かって貰う」 「サガット教官!」 思わず訓練時代の癖で教官、と呼んでしまった。すると上官は威圧的な目を微かに眇め 「サガット()、だ。ネイドルフ卿。卿は既に“第1階位”の魔術師。いつまでも新入り気分でいて貰っては困る」 「っ!申し訳ありません、サガット卿」 慌てて謝罪すると彼は頷いたものの、決定を覆す気はないらしく 「これは塔の決定だ」 にべもなくそう言い放った。 塔の決定ーーそう言われてしまっては、僕には絶対に断れない。少し憮然として溜息をつく。 「塔の、ですか」 「そうだ」 「ならば、従わない訳にはいきませんね」 甚だ不本意だが派閥の名を出された以上、そこ所属する魔術師に拒否権はない。塔の決定と言う事は、塔でも高位の魔術師である導師や、その更に上の上級導師が会議で決めた事だと言う事だ。 因みに僕の父は上級導師である。その時点で最早、僕に断る権利などない。父は当主で僕はその息子。謂わば最も血が近しい臣下だ。なら……その命令は絶対だ。 事件の内容自体は溜息が出るほど馬鹿馬鹿しい事この上ないが、仕方ない。 「……分かりました、本日中にアルドミナへ向かいます」 「任せたぞ。初の任務だ。ネイドルフ卿、くれぐれも気を抜くな」 「ええ、分かってますよ」 馬鹿馬鹿しい。 気を抜くもなにも、ただの貴族娘の家出じゃないか。そう口にしかけたが呑み込み、わざと恭しく頭を下げて見せた。 きっと無駄足だ。 あーあ、初の単独任務がこんな事件だなんて ほんと、僕ってばツイてないなぁ どうせなら国家を揺るがす大災害とか、地下組織の陰謀とかなら良かったのに。 「それでは、失礼します」 溜息混じりに執務室を出た。 1人誰もいない廊下を歩く。コツコツと自分の足音だけが響く中、僕はつい文句を口にする。 「最っ低。折角の国外出張なのに、家出娘の捜索なんて……塔の魔術師がやる事かよ」 すると先程まで誰もいなかったそこに気配が生まれた。 「ネイドルフ様」 「……フィンドールか」 チラリと視線を向けると、そこには白銀の髪に澄んだ目をした女顔の美貌の騎士が立っていた。 フィンドール。 僕の従霊(じゅうれい)。 従霊というのは僕たちベネトロッサの魔術師が召喚の儀で呼び出す召喚獣の事で、星骸の塔に所属するうちの一族は、このラスガルドに於いて唯一「複層召喚魔術」を生業にする一族なのである。 あ、複層召喚ってのは、この世界とは異なる別次元の“概念”を呼び出す事ね。詳しく話し出すと長いしめんどくさいから説明は省くけど。 うちの分家の当主たちも含めた本家で開かれる当主会議により開儀決定される「召喚の儀」は基本、春に行われ“従霊”と呼ばれる召喚獣を召喚・契約する事を以て成功とし、それにより各家の魔術師は晴れてベネトロッサ一門で一人前と認められ、家系図に名が記される事になる成人の儀みたいなもの。 成人の儀の様なものだと前述したけれど、別段成人していなくても儀式に参加する事は出来るのが厄介な所で、うちの兄様は14歳で1騎、稀代の天才と呼ばれる上の姉様は9歳でなんと2騎同時召喚を成しており、僕は去年、13歳でフィンドールを召喚した。 父や母、祖父母の時代の平均は16歳前後だったらしいから僕らの世代に対して一族からの期待度は非常に高く、ぶっちゃけウザイ。 因みに僕は4人兄弟の末っ子で、上に兄と姉が2人いる。下の姉さんの話しは……まあ、いずれまた。 とにかく、僕は初召喚で中位という実力のある従霊を召喚した天才なのだ。 「お前もそう思うだろう?フィンドール」 同意を求めるとフィンドールは綺麗な眉を寄せて呟いた。 「我が君、どうかご油断召されますな」 「は?」 キョトンとして首を傾げた。こいつ、何言ってんの、と。 「あはは!フィンドール、お前聞いてなかったの?ただの家出。家出娘の捜索だよ。それの何処に気を付けろって言うのさ?」 「我が君、慢心は身を滅ぼします」 「慢心だって?」 何言ってんの、こいつ 「大丈夫だよ。どうせどっかで盛り上がって帰るの忘れてるだけだって」 「我が君……」 「心配いらないよ。それよりさ、さっさと馬鹿娘捕まえて、観光でもして帰ろうよ。お前もサヴィニアは初めてだろ?」 「ええ、まあ」 「ならさ、帰りにアルドミナのバザールに寄ろう!知ってるか?あそこには西方の名産全てが集うんだ!」 嬉嬉として語りかける僕に対してフィンドールは浮かない顔をしている。 心配性だな、こいつは まあ、主の身を案じるのは家臣として正しい事だけど 「そんな顔するなよ。お前の国のものも、もしかしたら有るかもしれないんだし、少しは楽しみにしたらいいじゃん」 「……ネイドルフ様?」 「お前の国は……もう滅んじゃったけれどさ?何処かで、少しくらいは……お前の国の文化が生きてるかも知れない」 「我が君……」 「えっと……ま、まあ、そんな感じだからさ!サクサク片付けて、沢山観光しようよ!ね!」 何となく気恥ずかしくなり、顔を背けると僕は急ぎ足で自分の執務室へと急いだ。フィンドールはそんな僕の様子を見て少し目を見開き、それから小さく苦笑する。 「分かりました。そう致しましょう」 「うん!」 相変わらず何処か不安そうにしてはいたけれど、それは杞憂だと思う。そんな杞憂に頭を悩ませるよりも、もっと楽しい事を考えてさせてやりたい。 フィンドールは西域に生まれた騎士だ。 伝説に残る青年期の数年を除いて、正史からは姿を消した謎の人物。そんなこいつの出生地はアルドミナのあるサヴィニア地方なのだと、かつて物知りな下の姉が教えてくれた。 もう滅んでしまった国。 自分が生まれた国が、仕えた王国が、再び現世に戻った時消え果てていたら仕えていた騎士はどんな風に思うのか。 きっと、凄く悲しいに違いない。 命を懸けて守ったものが跡形も無く消えていたら……凄く、凄く悲しくて寂しいに違いない。 だから僕はサヴィニアに行く事にした。 罰則覚悟でボイコットしても良かったけれど……もしかしたらフィンドールの国の文化とか衣服とか、食べ物とかの名残が見付かるかも知れないから。 こいつは僕の従霊で下僕だが、それでも少しくらいは楽しく今を過ごして欲しい。折角現世に帰って来たのに悲しい思いはさせたくない。 僕はこいつと……その……仲良くなりたいし いや、よそう。 こんなのらしくない。 馬鹿っぽい。 首を振るとフィンドールは不思議そうに首を傾げたが、僕はそれを無視すると足早に走り出した。 「ほら、行くよ!フィンドール、着いて来い!!」 「お待ちを、ネイドルフ様!」 余り走ると転びます。と慌てる奴を無視して駆け出した。 僕はそんなに子供じゃない。確かに法律上は未成年者の括りではあるが(ラスガルドの成人年齢は平均15~16歳なので)、仕事もしてる。しっかりした14歳。ちゃんとした大人だ。 「急げよ、夜までには峠を越えるんだからな!」 「ネイドルフ様!」 「ほらほら早く、置いてくぞ!」 後から追い掛けてくるフィンドールに笑みを浮かべて主らしく指示をする。 この時……アルドミナに端を発したこの令嬢行方不明事件が、後にジューネベルクをも巻き込んだ巨大な陰謀に繋がると言う事を 僕はまだ、知らずにいた。
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