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お話合いに集う者
私は軽自動車を走らせ、成美が指定した場所へと向かう。出来れば明るいうちに着きたい。いつも以上にスピードを上げる。
街を通り抜け、道は一本道となり、両脇には田園風景が広がる。道なりにひたすら突き進むと、両脇は木々の茂った風景へと変わり、山の中へと進んでいく。
成美が指定した場所に近づいてきた。
当たりは薄暗くなり、樹木の隙間から毀れる光がチカチカと輝くくらいで、太陽の光が殆ど当てにならない。
更に奥へと進み、舗装されていない測道へと入り、進んでいくと、そこには廃屋同然の今にも崩れ落ちそうな倉庫があった。
私は倉庫の近くに車を止め、車から降り倉庫に近づく。
倉庫は大きい物ではなく、木造で、塗装は禿げ落ち、壁を形成する板はささくれていて、長い間、放置されていたことが一目瞭然だ。
緑青の吹いたドアノブを握る。背中に寒気が走るような軋む音を響かせ、ドアを開ける。
埃が舞う部屋の中央に、白くて薄汚れた四角いテーブルがあり、そこに成美が笑みを浮かべ座っていた。
「美織ちゃん。待ってたよ~。ようやく二人きりで、お話が出来るね」
成美は悪意に満ちた笑みを浮かべ、私に向かいに座るよう、右腕を伸ばす。
ようやく成美と向かい合うことができた。
この条件を整えるために、一体、どれだけの犠牲を払ってしまったのだろう……。
「成美さん。まずは、四名の刑事がどうなったのか教えてくれないかな」
「カスに用はないからね~。捨てたよ。それと~。成美ちゃんって呼んでくれないかな~」
「分かったわ。成美ちゃん。どうしてこんな事を続けるの」
「本当に呼んだ。面白いな~。楽しいからだよ。他にどんな理由があるのかな~」
どこまで人をバカにする気だ……。
ただ、ここで怒りを露わにしては、成美の思う壺だ。
「楽しいから……。私には到底理解できない世界ね。ただ、その楽しみも、もうじき終焉を迎えるけどね」
「美織ちゃんも人を殺したことがあるよね~。楽しくなかったのかな」
「私は楽しさを感じてはいない。あの時は正義を貫くためにやむをえなかった。一緒にはならない」
「それ最高に笑える。うんこだよね~。やった事は一緒だよ。どんな人でも同じ命だよ」
ふざけた口調の中に、真意を込めた実弾を放ってくる。
侮れない……。
「確かに同じ命ね。けど、正義の存在は無視できない。貴方の殺害に正義はない」
「正義なんてどうでも良いと思うな~。正義も悪も貫けば、悲劇を生むよ。もっとも、悲劇の先は喜劇だよね~」
成美は笑い声を響かせた。
「悪に救いはないでしょう。正義には救いがある」
「何を救うのかな~。自分自身じゃないのかな~。罪を清算するための救いかな。笑える~」
思わず厳めしい表情を浮かべてしまった。
「美織ちゃん。怒ったかな~。可愛い~」
「成美ちゃん。それでも私は正義を信じるの。救われるのが自分であっても、その先に未来があるなら」
「今度は未来か~。笑いが止まらないよ~。次々とうんこみたいな言葉が出てくる~。未来を信じても、悲しくなるだけだと思うよ~。未来なんて、人を裏切って、絶望を創り上げるために存在するんだよ」
成美は大声を上げて笑い続ける。
成美の視線が私から逸れた一瞬!
私は懐から手錠を取り出す!
「貴方に未来はない!」
頬杖をついて、余裕の笑みを浮かべる成美の右手首に手錠をかけ、自分の右手首にも手錠をかけた。
「美織ちゃん。面白い事をするね~。楽しくなってきたよ」
成美は不敵に笑い続ける。
「その余裕、いつまで続くかしら。楽しみなのは私の方かしら」
これが私の策だ。成美の戦闘能力の高さは身を持って知った。銃を隠し持っても察知されるだろう。下手に戦いを挑むのは得策ではない。殺気は会話を続けることで、何とか隠す事が出来る。
この状態になれば、成美は私を殺してから右手首を切断することになる。私を生かしたまま切断する事も可能だが、どちらにしても時間を要する筈だ。お喋りでも時間を稼いだ。手錠の鍵なんて持っていない。
もうじき、警察が来る筈だ。
私は成美に潰されるが、その後に成美が潰れる。
引き分けだが、最後に正義が受け継がれる。
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