23人が本棚に入れています
本棚に追加
「美織ちゃん。助けは来ないよ」
成美の表情から余裕が消えない。いや、むしろ勝利を確信したような表情に変わった。
「何を言っているのかな。成美ちゃん」
成美は左手で何かのリモコンを掴み、私の背後にあったテレビのスイッチを入れる。テレビから流れる緊急のニュース。
『今日。都内の幾つかの警察署や報道関係機関の入り口にクーラーボックスが置かれていました。中には人間の身体の一部分が入っていたとのことです。』
ニュースキャスターが開口一番で言っていた。
「こんな状況で、元警察官の美織ちゃんを助けに来るかな~。皆、驚いているだろうね~。クーラーボックスを開けたら、人間の血に塗れた身体の一部分が入っているんだから。目玉、耳、頭皮、心臓、脳、手足、性器とか~。どのクーラーボックスにもたっぷりと血を入れたから、嘔吐した人もいるかも~」
成美は唖然とした私を笑いながら喋り続ける。
「どうやってこれだけのことを」
「簡単だよ。私がお願いしたら、皆、快くクーラーボックスを運んでくれたよ~。中身は内緒だったけどね~」
「ここに来る警察官の人数が減るだけよ。成美ちゃんがいくら強くても、数人の警察官を一気に相手には出来ないでしよう」
私は冷静を取り戻す。
「スマフォを見てごらん」
スマフォを取り出し見てみる。
スマフォの画面は真っ黒になっていた。
警察と繋がった状態にしておいたのに。
何故!
スマフォのスイッチを何度も押すけど、何の反応もしない。
どうして!
「良く確認しないでメールを開くからだよ。ウイルスに感染しちゃったみたいね~」
メール……。
不審なメールなんて開いていない。
どうして……。
そう言えば、C公園で妹からメールが来たけど……。
まさか!
「成美!妹に何をしたー!」
私は大声を張り上げ、成美に飛びかかったが、右腕を引き込まれ、テーブルに顔を押し付けられて、左腕を右肘の辺りに絡められ、右腕を引き伸ばされた状態にされてしまった。
「美織ちゃんが私の事を調べたように、私も美織ちゃんの事を調べたよ。光(ひかり)ちゃんだよね。可愛い妹さんだね」
「お願い。私はどうなっても良い。だから、妹だけは」
不意に右腕を絞め上げられ、無理な方向に動かされ、右肩の辺りから何かが砕けるような鈍い音が、耳元に響いた。
私の願い事は、自らの悲鳴で掻き消すことになった。
右肩に走る激痛。
全く動かない右腕……。
今度は右手首に今まで感じた事の無い激痛に襲われる。
喉を切り裂くかのような絶叫をし、一気に涙が溢れ出す。
右手首の骨をグリグリと何か重量感のある鉄のような物で砕かれながら、ぶちぶちと色々な物が切られているような感覚が伝わり、絶望感と言う闇の中に落ちて行く自分を感じながら、右手が自分の物で無くなった。
成美の右手首から手錠で繋がっている私の右手首が、鮮血を弾きながらぶらぶらと振り子のように揺れる。
成美は笑みを浮かべ、ピン止めを取り出し、手錠の鍵穴に突っ込み、手錠を難なく外し、私の右手をゴミのように放り投げた。
白いテーブルの上に私の鮮血が広がり、深紅に染まっていく、私は身体から力の全てが抜けて行くのを感じながら、崩れ落ちへたり込む。
朦朧とした感覚の中で、何となく見ることが出来た成美の膝……。
硬い鉄のような物が、顔面にぶつかり、私の意識はゆっくりと消えて行く……。
そんな中で、テレビのニュースキャスターが、『エリーナ 作品9』と言っていたのを薄らと聞きとった……。
最初のコメントを投稿しよう!