調べられる者

1/2
22人が本棚に入れています
本棚に追加
/17ページ

調べられる者

   私達は成美を甘く見ていた訳ではなかったが、二人の仲間を失ってしまった。我々の情報ばかりでなく、銃まで奪われている。人数で勝っていても、戦況は我々の方が不利な状況かもしれない。  それにしても、驚くべきは成美の危機を察知する能力の高さだ。恐らく、瞬時に奈良都と泉の正体を見抜き、抹殺に取り掛かった。戦闘能力も異常に高い。  我々は成美の情報収集を改めて行うことにした。  三人で話しあった結果、成美の芸能界時代を更に深く調べることにした。学生時代はキックボクシングに明け暮れ、異常な行動は見受けられない。狂い出したのは、芸能活動を始めてからだ。その時に、成美に何があったのかを調べる必要がある。  特に、『エリーナ』シリーズを演じていた時期が気になる。その時期こそ、成美がシリアルキラーへと変貌を遂げた時期なのだから。   まずは、成美の所属事務所を再度、調べることにした。当時、成美が仲良くしていた芸能人、マネージャーなど、成美に関する情報が得られるなら、誰でも構わない。とにかく、当たってみることだ。  事務所の対応はやたらと事務的であり、冷たいものだった。既に引退した者に対しては、いらない商品のようにしか見ていない感じだ。  それでも、我々は出来る限り、情報収集に努める。 成美に少しでも近づくために……。  事務所から得た情報を元に、成美と仲良くしていた元グラビアアイドルAに会う事にした。Aは既に引退していて、某アパートで一人暮らしをしていた。  Aの話によると、プライベートでは一緒に食事をしたり、何処かに遊びに行ったりとかなり仲良くしていたとのことだった。性格は優しく、明るい娘だった。あのような凄惨な事件を起こしたことが、未だに信じられないとのこと。  仕事の面の話では、成美はマイナーだったため、入ってくる仕事量は少なく、苦労していたとのことだった。イメージDVDも、際どい物が多く、本人は嫌だったかもしれない。  また、『エリーナ』シリーズも嫌だったのではと話してくれた。内容はマニア向けで、一般人が想像するヒロイン像とは程遠いものであったが、マニアに受けてしまったがために、五作も演じることになってしまったと言っていた。  そして、最後に、マネージャーがかなり酷かったことを話してくれた。  我々はAとの話を終え、本部に戻り、早速、成美が出演したDVDを見てみた。 「これじゃ、AVと変わりないですね。薄い布切れで何とか要所は隠しているものの……」  勇樹が早速、思い切った意見を述べてきた。 「注目する所はそこじゃないでしょう!この仕事を受けた成美の内面に迫りなさい!」 「すいませんでした。不謹慎な発言でした」  ここで重要なのは、DVDの内容ではない。何が成美を狂わせたかだ。  『エリーナ』も見たが、内容は良い物ではなかった。内容は一時間くらいの物で、最初の三十分がチープなドラマで、残り三十分がバトルシーンとなるが、バトルと言うよりかは、敵に一方的にやられてしまい、最後の数秒間で必殺技を放って逆転すると言った、何とも言えない物だった。 「私だったら、絶対にやりたくないですよ。こんな内容じゃ……。何故、成美は続けたんでしょうね」  美雪の発想もこの程度か……。 「俺は見ていて痛く感じてきました。何故、こんな内容の物を一生懸命取り組んだのか。成美のルックスとスタイルなら、他にもっと良い仕事が取れたと思うんですけどね」  勇樹も似たような発想か。要は、何でこんな役を受けたのかと言う事か。 「けど、本人も最初は、ヒロインのアクション物と聞いて、嬉しかったかもしれませんね」 「どうして?」  勇樹が推測的な意見を出す。 「アクションならキックボクシングの経験が活かせる。そう思っていたとなると、この役柄はかなりショックだったのかなと、思っただけです」  確かにその推測は成り立つ。  限界露出をし、真冬でも野外で水着を着るくらいなら、女優として頑張れる『エリーナ』の仕事に飛びついた。内容は成美の期待を見事に裏切った物ではあったが……。 「成美のこの世界への執着心が気になります。客観的に考えたら絶対に嫌な仕事を続けてでも、メジャーになりたかった成美の気持ちが……。Aのように諦めて引退すると言う、選択肢もあった訳ですから」 「そこよね。成美が執着した世界は、何処にあったのかしらね。夢と現実とのギャップは、理解できていた筈でしょうから」  美雪の言う、成美の芸能界に対する執着心は気になるところだ。 「それと、気になるのは、マネージャーがかなり酷かったと言うことですよね。Aを引退に追い込み、成美にも散々嫌な仕事を強要させた上に、苛めもやっていたって話でしたよね」 「そうね。成美のマネージャーだった、野地 香奈枝(のじ かなえ)も調べましょう。とにかく成美に徹底的に迫りましょう!」  成美のマネージャーにも、成美を狂わせた一因があるかもしれない。 「はい!」  勇樹と美雪の返事が揃った。
/17ページ

最初のコメントを投稿しよう!